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わずかな電荷移動で水素吸蔵特性が格段に向上―遷移金属粒子と金属有機構造体のハイブリッドで解明:物質・材料研究機構

(2018年10月5日発表)

 (国)物質・材料研究機構と九州大学、京都大学の共同研究グループは105日、パラジウムと金属有機構造体のハイブリッド材料が、パラジウム単体に比べて約2倍の優れた水素貯蔵特性を持つのは、パラジウムから金属有機構造体へ電子約0.4個分の電荷が移動したことに伴う、ごくわずかな電子状態の変化によっていることが明らかになったと発表した。

 研究グループが調査したのは、遷移金属のパラジウム(Pd)と、多孔性金属錯体とも呼ばれる金属有機構造体(MOF)との組み合わせからなる、ハイブリッド材料の界面の電子状態。

 遷移金属ナノ粒子とMOFからなるハイブリッド材料は、水素吸蔵特性に優れ、水素化触媒としての特性も優れていることから、今後の開発や応用展開が期待されている。

 しかし、反応場となる界面の電子状態の測定方法は確立されておらず、高性能な材料を創製するうえで重要な構成物質間の界面の電子状態はこれまで不明だった。

 研究グループは、Pdのナノキューブを遷移金属ナノ粒子とする「PdHKUST-1」と名付けられたハイブリッド材料を研究材料とし、Pd単体よりも、ハイブリッド材料の方が格段に水素吸蔵特性や触媒性能が優れる理由の解明を試みた。

 調査は大型放射光施設「SPring-8」のビームラインを利用して、単体とハイブリッド材料の電子状態を比較した。その結果、ハイブリッド材料において、PdのナノキューブからMOFに電子約0.4個分の電荷が移動していることが明らかになった。

 このわずかな電荷の移動によって、Pdの電子バンドに水素を吸蔵するための受け皿が殖(ふ)え、Pdナノキューブ単体に比べ、約2倍という大幅な水素吸蔵特性の向上がもたらされたことが分かったという。

 今後水素吸蔵特性や触媒性能を格段と向上させた新たなハイブリッド材料の開発促進が期待されるとしている。