森の果実が豊かだと、鳥はタネをあまり運ばず、その距離も短い―動物による種子散布メカニズムを解明:京都大学/森林総合研究所
(2018年10月15日発表)
京都大学生態学研究センターの直江将司博士課程学生、酒井章子准教授と(国)森林総合研究所は10月15日、大規模な森林調査の結果、森の果実が豊かなほど鳥が種子を運ぶ割合が低く、運搬距離も短いことが分かったと発表した。鳥が果実を探して広範に移動しなくなるためとみられる。こうした調査の積み重ねによって、森林の植物多様性の維持の仕組みや温暖化に伴う森林の変化などを具体的に把握できるようになるとみている。
動けない植物が広く繁殖し、離れたところに仲間を増やすには、種子を風や海流に乗せたり、動物などを介したりの散布活動をしている。中でも動物が果肉を種子ごと飲み込み、種子をフンとして排出する「周食散布」は、温帯林で35~71%、熱帯林では75~90%に上り、ほぼ常態化している。
種子散布は鳥類や哺乳類に多く、特にクマ、ゾウなどの大型動物ほど種子を遠くまで運ぶことができる。同じような動物に種子散布される植物でも、樹種や年によって種子が運ばれる距離が異なることが知られていたものの、その理由は解明されていなかった。
研究グループは、茨城県北部のブナ林・小川試験地内のフィールドに、326個の種子回収装置を置き、2週間に1度、鳥のフンに含まれる種子や食べ残した果実を採取した。また周食散布をする樹木約1,000本の結実状況を毎年調べ、結実している木の位置を記録した。
植物の種類と年毎に種子の何割が鳥によって運ばれたか、親木からどのくらい遠くに種子が運ばれたかを調べた。さらに試験地内に生息する鳥の種類や個体数の調査を366回にわたって実施した。
その結果、森の果実の豊作、凶作が鳥の種子散布を左右することが明らかになった。まず森全体が豊作な時ほど鳥が種子を運ぶ割合が低かった。中でもウワミズザクラは、凶作年では鳥散布率が57%だったのに豊作年ではわずか2%と大きな差がついた。鳥の数そのものはあまり変化しなかった。このため、果実量が多い時には鳥が果実を食い尽くせなかったことが理由とみられた。
一方で、鳥が昆虫を良く食べている初夏に結実するカスミザクラでは、森の果実の豊作、凶作にかかわらず3年間とも鳥散布率が10%程度だった。これはこの時期に鳥が食い尽くせないほど昆虫の量が多い事が原因とみられる。
鳥が種子を運ぶ距離の調査では、森全体の果実量が多い時ほど短くなった。例えばツタウルシの種子散布率は平均で203mだったが、豊作年では81mに止まった。これも果実が豊かな時には鳥が果実を探して移動する必要がないとみられる。
今回は鳥が種子を運ぶ樹木は6種類だけを対象にしたが、他の植物でも同様な関係が認められれば、動物の種子散布メカニズムの解明が大きく進展する。それによって森林の植物多様性が維持されている仕組みや、温暖化に伴って森林がどのように変化するかを定量的、現実的に分析できるとみている。