ハイブリッド整流回路を開発―宇宙機センサーに無線で電力供給実証:産業技術総合研究所ほか
(2018年11月6日発表)
(国)産業技術総合研究所は11月6日、人工衛星など宇宙機に取り付けたセンサーに無線で電力を送るための整流回路を開発したと発表した。宇宙を飛び交う放射線に強い窒化ガリウムとシリコンの半導体と組み合わせたハイブリッド整流回路を作製、マイクロ波を直流電力に変換できることを初めて実証した。電力ケーブルなしに給電できるので、宇宙機の軽量化や耐振動性強化、設計の自由度向上などに役立つ。
産総研・電磁気計測研究グループの岸川諒子主任研究員、堀部雅弘研究グループ長が(国)宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の川﨑繁男教授と共同で開発した。
人工衛星や宇宙船などの宇宙機内では、機体や装置の状態を監視するために多くのセンサーが取り付けられる。開発したハイブリッド整流回路は機体の各所に取り付けられたセンサーに必要な電力をマイクロ波にして無線で送り、各センサーで受信して直流電力に変換、使用する。
整流回路にはダイオードが用いられるが、宇宙では強い宇宙線が降り注ぎ放射線強度は地上の約100倍から1,000倍にも達するため、シリコン半導体などでは誤動作や破損が起こりやすい。そこでダイオードの材料として放射線に強い窒化ガリウムを採用。一方、ダイオードにマイクロ波を入力するための回路はほとんどが配線で宇宙線による誤動作が小さいため、小型軽量化が可能で量産しやすいシリコン半導体を組み合わせたハイブリッド整流回路とした。
電力損失の少ない回路を設計するには窒化ガリウムダイオードにマイクロ波を入力したときの電気特性を正確に知る必要がある。そのため研究グループは新しい評価技術を確立、最適な回路設計を実現し、初めてアンテナで受信したマイクロ波から100mW程度の直流電力を得ることに成功した。宇宙機内に設置した8個の温度センサーを、またスマートフォンなどに搭載されている通信「ブルートゥース」なら1~3台程度と通信できる電力量という。
産総研は「宇宙空間における無線電力伝送の実現だけでなく、将来の地上におけるセンサーネットワークへの電源供給や電気自動車の充電への応用も期待できる」と話している。