新原理の電気回路を作製―散乱なしに電磁波の伝送が可能に:物質・材料研究機構
(2018年11月19日発表)
(国)物質・材料研究機構は11月19日、直角や鋭角の経路でも高周波の電磁波を散乱させることなく伝送できる新原理の電気回路「蜂の巣状トポロジカルLC回路」を作製することに成功したと発表した。エレクトロニクス分野で広く使われる高周波電磁導波路に応用すれば、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT技術や車の自動運転などに欠かせないさまざまな電子機器の小型・高集積化に役立つと期待している。
「トポロジカル特性」は結晶中の電子が持つ性質で、結晶の形状や欠陥に影響されずに無抵抗なまま流れるという特性。米国のD.サウレス博士らが理論的に解明し、2016年にノーベル賞を受賞した。研究チームはこの特性が電子だけでなく光や電磁波にも拡張できるのではないかと考えた。
そこで研究チームは、導体箔と誘電体中間層、表面線状導体箔の三層構造を持ち、電磁波を伝送する導波路として知られる高周波電磁導波路「マイクロストリップ」に注目。辺上に細い表面線状導体箔がついた六角形がいくつもつながって、ハチの巣状の格子模様になったマイクロストリップを作製した。
LC回路は、電流を流すことで磁場が発生するコイルと電気を蓄えるコンデンサーで構成された電気回路で、このハチの巣格子のマイクロストリップも同様の働きをする。線状金属箔の線幅と交点を調整することでLC回路を構成するコイルとコンデンサーの特性を変えられる仕組みだ。
このLC回路の一部に電磁波を入力できるアンテナを設置したところ、電磁波がハチの巣状のLC回路の中で時計回りと反時計回りの渦巻きを作りながら伝わる様子が観察できた。マイクロストリップに複雑な加工を施さなくても、左巻きと右巻きの電磁モードが綺麗に分流され、電子と同様に電磁波でもトポロジカルな現象を起こせることが分かった。
この結果について、研究チームは「蜂の巣構造の幾何学的特性から、単純なLC回路に物性物理と物質科学の最もホットなトピックスの一つであるトポロジカル物理現象が現れることが判明した」と結論。トポロジカルな特性を示す電磁波は直角や鋭角の経路にも散乱されないため、コンパクトな電磁回路の設計に新たな道をひらくと期待している。