劣化しないリチウムイオン2次電池用の負極を開発―酸化ケイ素ナノ薄膜で、容量が黒鉛電極の5倍に:産業技術総合研究所
(2018年11月21日発表)
(国)産業技術総合研究所の間宮幹人主任研究員らは11月21日、導電性基板の上にナノメートルサイズ(ナノは10億分の1)の一酸化ケイ素(SiO)の薄膜を作り、その上に導電助剤を積み重ねることで、高容量で長寿命のリチウムイオン2次電池用電極(負極)を開発したと発表した。電極は200回以上の充放電を繰り返しても安定して高容量が維持され、高容量化と小型化に大きく寄与すると期待される。
リチウムイオン2次電池は、スマートフォンや電気自動車用などに広範に利用され、3年後には4兆円市場に伸びるとみられている。
負極材料には、従来の黒鉛よりケイ素系物質が有力視されているが、中でも一酸化ケイ素の期待が高い。しかしそのままでは充放電を繰り返すうちに容量の劣化が起きる大きな問題があった。
産総研では正極、負極や固体電解質などの新たな材料開発に取り組んできた。一酸化ケイ素は高温減圧で気化することから基板に蒸着し易い利点はあるが、導電性が低くさらに充放電の際にリチウムイオンの出入りによって電極構造がひどく劣化する難点があった。
そこで劣化を抑えるために一酸化ケイ素の粒径を300~500nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)まで微細化して蒸着し、その上に電気を通し易くするためカーボンブラックに結着剤を加えた混合液を塗布し、乾燥させた。
電子顕微鏡で見ると、一酸化ケイ素膜(膜厚80nm)にカーボンブラック(膜厚50nm)が接していた。一酸化ケイ素の膜厚は充放電による劣化を抑える効果のある300nmよりも薄く、微細化された構造ができていた。
この電極を負極に、リチウムを正極にした電池の充放電の変化を調べると、1サイクル目から大きな容量が得られ、その後も200回の充放電を繰り返しても2,000mAh/g(ミリアンペア時毎グラム)以上の安定した容量を示した。これは電極に使われた一酸化ケイ素のほぼ全てを、電子の受け渡しに関与する電池の活物質として利用していることを示していた。
ただこの電極は、最初の充電時に大きな容量が必要になり、このまま電池材料として組み込むと正極のリチウムが消費されて性能が下がってしまう問題がある。このためあらかじめリチウムと反応させるプレドープという処理を施した電極を作成することで、実用化に向けた性能試験を進めている。