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地中深部の鉱物で起きる「水素結合の対称化」を実証―含水鉱物の物性変化の原因も解明:日本原子力研究開発機構/J-PARCセンターほか

(2018年11月22日発表)

 (国)日本原子力研究開発機構とJ-PARCセンター、東京大学、北海道大学の研究グループは1122日、地中深部の含水鉱物中で、隣り合う2つの酸素原子の真ん中に水素原子が位置する「水素結合の対称化」が起きていることを、中性子回折実験で観測したと発表した。水素結合の対称化は理論的には半世紀ほど前に予測されていたが、観測実験で実際に確認したのは世界で初めてという。

 地表の鉱物中の水素原子は通常、約3Å(オングストローム、1Åは1,000万分の1mm)隔てて隣り合った2つの酸素の中間ではなく、片方に偏った1Å程度の場所に位置している。 これは、水素が電子を一つしか持たないため、片方の酸素とのみ共有結合し、もう片方とは静電的な水素結合をしているため。

 ところが、1970年代に氷に関する理論計算で、高圧下では水素の位置が相似形を保ったまま縮むのではなく、二つの酸素間の中点に位置する「対称化」が起きると予測された。さらにその後、含水鉱物中を伝搬する弾性波の速度が急激に増大するなどの物性変化も報告されたが、これらの研究報告に関する直接的な証拠はこれまで得られていなかった。

 研究グループは今回、結晶中の水素の位置の決定などに威力を持つ中性子回折による観測を試みた。

 実験では、ボーキサイトなどに含まれる含水鉱物のダイアスポアが高温高圧下で高密度な結晶構造に変化したδ-AIOOHという物質を用い、δ– AIOOH中の2つの酸素原子間における水素原子の位置が、圧力変化でどう変わるかをJ-PARCと米国の2つの高圧中性子回折装置を使って観測した。

 その結果、圧力の増大に伴って酸素間距離が縮小するにつれ、水素結合距離は減少し、共有結合距離は増大する様子を観測、最終的に、地下約520kmに相当する18万気圧という高圧下において、水素結合の対称化が起きることを観測した。

 これは地表でみられる静電的な水素結合が高圧下では消え、水素が両方の酸素と強固な共有結合で結ばれるようになることを意味しているという。

 また、対称化が起こるよりも少し低い圧力下では、水素が酸素間の中点を挟んだ二つの等価な位置をそれぞれ2分の1の確率で占めるディスオーダーという状態が起きること、このディスオーダーと水素結合の対称化が物性の変化に大きな影響を及ぼしていることが実験的に裏付けられたという。今回の研究で、地震波速度を決定する弾性波速度の高圧下での上昇も確かめられたとしている。