病原菌スピロヘータが木材消化の有用微生物だった―サプリメントや低カロリー甘味料、バイオプラスチックへの応用に期待:琉球大学/農業・食品産業技術総合研究機構ほか
(2018年11月22日発表)
琉球大学熱帯生物圏研究センターの徳田岳教授と(国)農業・食品産業技術総合研究機構の渡辺裕文主席研究員らの研究グループは11月22日、人間の病原細菌として知られるスピロヘータがシロアリの腸内で消化酵素キシラナーゼを作り、木材の主成分であるキシランの分解に主要な役割を果たしていることを初めて明らかにしたと発表した。キシランに含まれるキシロースは糖の吸収を抑えるサプリメントとしての活用が進んでおり、またキシロースから得られるキシリトールは低カロリー甘味料やバイオプラスチックへの応用なども期待されている。
シロアリは熱帯、亜熱帯を中心に約3,000種類が知られている。国内の温帯域に分布する「下等」なシロアリの腸内に共生する原生生物が、木材を分解することは知られていた。ところが熱帯域を中心に分布する「高等シロアリ」と呼ばれるシロアリは腸内に原生生物を持たないため、ヘミセルロースを分解する仕組みが不明だった。
研究グループは沖縄県八重山諸島に分布する高等シロアリの一種、タカサゴシロアリを使ってキシランの分解メカニズムを調査した。
シロアリの消化管のうち細菌は主に後腸に共生していた。シロアリはまず大きな顎で樹木を噛み砕き、前腸に運んで破砕(はさい)し、さらに中腸ではセルラーゼで部分的に分解し、そのあと後腸に運ぶ。
一方、樹木の構造は人間に例えると、”骨格”のセルロース、”筋肉”に相当するリグニンと、その間を連結(架橋)する多糖類のヘミセルロースで構成されている。高等シロアリによって噛み砕かれ、腸内に運ばれた木材のヘミセルロースがどのように分解されるのかは、世界的にも研究がなされてなく、未解明だった。
研究グループによると、ヘミセルロースの主要成分のキシランを分解する能力は後腸ではセルロースより強力だった。木材に付着したバクテリアを取り出し、次世代DNAシーケンサーで網羅的に解析をしたところ、特定の種類のキシラナーゼ遺伝子群が最も多いことなどを確かめた。
またキシラナーゼ遺伝子を大腸菌に組み込んで調べると、キシランの分解力が強いことが確かめられた。こうしたことから高等シロアリの腸内では、木材の分解を担う原生生物が失われた代わりに、スピロヘータが分解に関与するようになったとみている。
人間や草食動物の腸内にもキシラナーゼを生産する細菌群が共生しているが、これらはスピロヘータとは全く異なる細菌である。
脊椎動物と昆虫という系統的に大きく離れた動物の腸内で、共通の機能を持つ細菌が、独立に進化していることを意味するもので、細菌の進化や共生の仕組みを理解する上で重要な知見となった。またキシロースの産業化への展開にも大きく役立つとみている。