植物と鉱物原料で、紫外線除去と透湿性の高いフィルムを開発―石油原料を使わない生分解性の農業用紫外線カットフィルムに期待:産業技術総合研究所ほか
(2018年12月19日発表)
(国)産業技術総合研究所と(国)森林研究・整備機構森林総合研究所は、植物成分と鉱物成分だけを使って、紫外線を高度に吸収し同時に水蒸気を通しやすくした紫外線カットフィルムを開発したと12月19日に発表した。材料に石油原料を全く使わないことから、環境負荷が少なく、廃棄後もそのまま畑に戻せる可能性があり、新たな農業用フィルムとしてビニールハウス材料に期待されている。
温暖化による気温上昇によって病害虫による農業被害の増加が懸念されている。こうした病害虫の侵入を防ぐには、紫外線カットフィルムを使った農業用ビニールハウスが効果的だ。
これまでは石油由来のポリ塩化ビニルフィルムで農業用ビニールを作ってきたが、環境負荷を減らすために石油由来成分を使わない紫外線カットフィルムの開発が待たれていた。
産総研は不燃性、耐熱性、ガス防護の性質を持った粘土膜材料「クレースト®」を開発しており、電子回路や不燃性の照明カバー、固定用のシール材などに利用されてきた。粘土を主成分にした膜材料で、厚さ約1nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の粘土が緻密に集積した材料である。
一方、森林総研は植物由来の高分子、リグニンの新たな抽出法を開発し、成分を変質させない機能性材料の開発を目指していた。そこで両研究所が共同でクレースト®とリグニンを組み合わせて、環境負荷の低い農業用フィルムの開発に取り組んだ。
産総研は森林総研と共同で2016年に、強酸や強アルカリを使わずに、成分の変質が少ない水分散性リグニンナノ粒子の抽出に成功した。これが紫外線吸収の性質を持つことことから、クレースト製作技術を使ってリグニンナノ粒子を含む膜を作った。
水分散性リグニンナノ粒子は、水の中でクレースト®の主成分の粘土と簡単に混合でき、この混合液で膜状物質リグノクレーストを作る。
リグノクレーストは、農産物生育に必要な透湿性と高い紫外線吸収作用があるため、病害虫を寄せ付けない紫外線カットフィルムとして優位だ。
また石油由来成分がなく、植物と粘土だけでできているため生分解性があり、廃棄時には畑にすき込んで処分できる可能性があると期待している。