カーボンナノチューブ製透明導電膜の簡便な製法を開発―分散剤と注入物を兼ねる高分子酸を使って実現:産業技術総合研究所
(2019年1月11日発表)
(国)産業技術総合研究所は1月11日、高性能・高品質なカーボンナノチューブ(CNT)製透明導電膜を簡便なプロセスで作れる技術を開発したと発表した。製造時間の大幅な短縮が図れ、フレキシブルデバイスにも適用できることから、CNT透明導電膜の幅広い活用が期待されるという。
透明導電膜はタッチパネル、ディスプレー、太陽電池などの透明電極として広く用いられている部品で、現在は主に酸化インジウムスズ(ITO)膜が使われている。しかし、ITO膜は伸縮や折り曲げなどへの対応が難しいことなどから、高品質で用途の広い新たな導電膜を簡便な製法で作る技術が求められている。
この開発に早くから取り組んできた産総研は、今回、CNTの分散液を基材に塗布するだけで高導電性のCNT膜を作製できる技術を開発した。
これまでの製法では、大量の分散剤を使ってCNTを溶液中に分散させ、塗布・製膜後には分散剤を除去したり、添加物をドーピングしたりするといった煩雑なプロセスを要し、製膜できる基材も限られていた。
新製法は、CNTの分散剤と注入物(ドーパント)を兼ねる高分子酸を用いたのが特徴で、この高分子酸により得られるCNT分散液を基材に塗布するだけでよい。高分子酸は酸の性質を示す高分子で、分子内にカルボキシ基やスルホ基などを有する。この高分子酸がらせん状にCNTに巻きついた複合構造を構築し、わずかな量の高分子酸でCNTを均一に分散できる。高分子酸の使用量は少量なので、製膜後高分子酸を除去せずとも高い導電性が得られる。
これらの結果、高品質なCNT透明導電膜の製造プロセスが大幅に短縮され、曲面や管の内面といった多様な基材上への成膜にも対応できる。また、新製法では数nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の極薄膜から数十µm (マイクロメートル、1µmは100万分の1m )の膜厚まで大面積膜を均一に製膜でき、幅広い分野での応用が期待されるとしている。
産総研は今後CNT導電膜やCNT分散液の具体的な用途開発を進めるとともに、量産化や品質保証の技術を確立し、実用化につなげたいとしている。