シオカラトンボの紫外線反射物質を解明―化学合成し反射能と撥水性の再現に成功:産業技術総合研究所ほか
(2019年1月15日発表)
(国)産業技術総合研究所は1月15日、浜松医科大学、名古屋工業大学、東京農業大学の研究者らと共同で、シオカラトンボのオスが分泌する紫外線反射ワックスの主成分を同定したと発表した。そのうちのひとつを化学合成したところ、強い紫外線反射能と撥水性が再現されたことから、将来的には生物由来の新素材として利用できる可能性があるとしている。
シオカラトンボは、オスが成熟過程で紫外線を反射するワックスを分泌することが知られている。未成熟の成虫は麦わら色をしたムギワラトンボで、体表にワックスを分泌した成熟過程のオスは全身が白っぽい水色へと変化し、日差しの強い水辺などでよく見かける。
ワックスの分泌は紫外線からの防御やコミュニケーションに重要な役割をしていると考えられているが、シオカラトンボのワックスの組成や産生の仕組みなどはこれまで不明だった。
研究によると、ワックスの分泌と同時に背側を中心に短波長、特に紫外線領域の光の反射率が増大し、体表面は鱗片状の微細構造になることが分かった。ワックスの組成化合物を調べたところ、極長鎖メチルケトンと極長鎖アルデヒドが主成分であった。
これまで知られている他の生物のワックスの主成分は脂肪族炭化水素、長鎖エステル、アルコール、遊離脂肪酸などで、シオカラトンボのものは、それらとは異なる特殊な組成だった。
2つの主成分のうちの極長鎖メチルケトンを化学合成し、再結晶化させたところ、トンボの体表面とよく似た微細構造が自己組織的に生じ、強い紫外線反射能や撥水性が再現された。
オスとメスの成熟過程における遺伝子発現状態からワックス産生関連遺伝子を探ったところ、極長鎖脂肪酸の合成に関わる遺伝子ファミリーに属するELOVL17遺伝子が浮上、紫外線反射ワックスの合成を担う有力な候補と考えられるという。
これらの新知見をもとに、今後紫外線反射ワックスの生態学的特徴の詳細を明らかにしたいとしている。