認知機能の低下を見つける血液マーカーの発見― 認知症の早期発見、予防につながる血液検査を目指す:筑波大学ほか
(2019年1月17日発表)
筑波大学医学医療系の内田和彦准教授と株式会社MCBI の鈴木秀昭研究員らのグループは1月17日、アルツハイマー病など認知症の発症に関わる3つの脳内たんぱく質が、軽度認知障害を見つける有効なバイオマーカーに使えることを発見したと発表した。さらに臨床研究を重ねることで、認知症の予防につながる検査薬の実用化を目指す。
世界の認知症患者は約5,000万人に上る。この6割から8割はアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)で、ゆっくり進行する認知障害が特徴とされる。
発症にはアミロイドβたんぱく質の関与が知られている。アミロイドβは正常な状態でも常に脳内で生み出され、脳から血流へと排出されるが、その排出量が低下することがアルツハイマー病の発症の原因とみられている。
アミロイドβの排出には3つのたんぱく質が関与している。アポリポタンパク質(ApoA-Ⅰ)、トランスサイレチン(TTR)、補体たんぱく質(C3)で、これらのたんぱく質の排出量の低下がアミロイドβの排出低下につながっていることが知られていた。
そこで軽度認知症に3つのたんぱく質がどのように関わっているかを、273人の血清を採って調べた。このうち軽度認知症およびアルツハイマー病と診断されている63人には、磁気共鳴画像(MRI)と、脳と特定の領域の血流の低下を診断する単一光子放射断層撮影(SPECT)を使って検査した。
その結果、3つのたんぱく質の血中の比率は健常者と軽度認知症障害者とではっきりとした差が見られ、軽度認知症の判別精度は約90%と高かった。
MRI検査による海馬の萎縮は、ApoA-Ⅰとコレステロール(HDL)の量の低下と一致した。SPECT検査による脳血流量の減少は、C3、ApoA-Ⅰ、HDLと総コレステロール量と関係があった。さらに亡くなったアルツハイマー病患者の病理解剖ではC3たんぱく質の有意な変化があることを見つけた。
3つのたんぱく質はアミロイドβを排除するように働き、ApoA-Ⅰは炎症を抑制し、TTRは神経毒性などを抑制する役割がある。
軽度認知障害を早期と後期に分けて解析したところ、早期の軽度認知障害で血液マーカーが低下した。これらのことから3つのたんぱく質が認知機能低下を判断する上で有効なバイオマーカーになることが明らかになった。
3つのたんぱく質を使った軽度認知障害のスクリーニング検査は、株式会社MCBIがすでに実施中。今回の研究で早期の認知機能の低下と脳血流量低下や脳萎縮と強く関連することが明らかになった。認知症の予防につながる血液検査として期待される。