小型の冷却装置で動作可能なシリコン量子ビット実現―センサーなど量子ビットの応用研究加速へ:理化学研究所ほか
(2019年1月23日発表)
(国)理化学研究所と(国)産業技術総合研究所の共同研究グループは1月23日、シリコン量子ビットを絶対温度10Kで動作させることに成功したと発表した。これは小型の冷却装置で動作可能な量子ビットの実現を意味しており、量子ビットの応用研究の新たな展開が期待されるという。
量子ビットは「0か1か」の2値から成るデジタル情報のビットとは違い、0と1だけではなく0と1の量子的重ね合わせ状態もとることができるビット。既存のスーパーコンピュータが苦手とするような難問を瞬時に解く量子コンピュータの構築をはじめ、超高感度センサーなどの応用開発が期待されている。
量子ビットの得方は様々に研究されているが、共同研究グループは今回、シリコン中の電子スピンを用いるシリコン製の量子ビットの開発を目指した。シリコン量子ビットの作製には既存のシリコン技術を応用できるというメリットがある。半面、超伝導量子ビットと同様に、これまではその動作に0.1K以下の極低温状態を作り出さなければならず、大型で極めて高価な冷却装置を必要としていた。
開発したのは、このような冷却をせずとも動作する量子ビット。トンネル電界効果トランジスタ構造中に、深い不純物を導入し、深い不純物の電子をトランジスタ電極に取り出し、「スピン閉鎖現象」と名付けられたスピン量子ビット読み出しに適した現象を利用することで、量子ビットの状態をトランジスタの電気特性として読み出した。
これら一連の工夫と開発によって、熱エネルギーによる撹乱に負けない、強く局在した電子を得ることができ、小型の冷却装置による10Kの冷却でも動作させることに成功した。今回作成した高温動作シリコン量子ビットは、量子ビット単体がトランジスタに埋め込まれた構造になっており、センサーなどへの応用に向いているという。