害虫がイネから養分吸い取るのに必要不可欠なたんぱく質を発見―その働き抑えればイネを害虫から守れる:農業・食品産業技術総合研究機構
(2019年2月12日発表)
(国)農業・食品産業技術総合研究機構は2月12日、イネの害虫「ツマグロヨコバイ」がイネから養分を吸い取るのに必要不可欠なたんぱく質を発見したと発表した。イネに取り付く害虫として問題になっているツマグロヨコバイの唾液の中から見つけたもので、このたんぱく質の働きを抑えるとツマグロヨコバイはイネから液汁を吸い取ることができなくなって幼虫はほとんどが成虫になれずに死亡することが分かった。
ツマグロヨコバイは、体長が5~7mmの吸汁性昆虫の一種。針のような口を持っているのが特徴で、それをイネに突き刺して養分や水分を奪い取るほか、病気(イネ萎縮病など)を媒介する厄介な害虫で、農薬要覧によるとその発生面積は日本の水稲の全耕地面積約148万ha(ヘクタール,1haは1万㎡)の3分の1近い約45万haに及んでいる。
このため、海外で見つかっているツマグロヨコバイに食害されにくい抵抗性の品種の遺伝子を交配によって導入したイネが日本国内では栽培されるようになってきている。
しかし、その方法には、人工的に繰り返し選抜を行うとそれに適応できるツマグロヨコバイが発生する心配があり、既にその発生の報告が出ている。
農研機構の研究グループは、ツマグロヨコバイが養分を吸い取る際にイネの内部に唾液を吐き出すことに注目、その唾液にイネからの吸汁を促す仕組みがあるのではないかと研究を進め唾液の中に含まれる約70種類のたんぱく質全てを網羅的に解析した。
その結果、ツマグロヨコバイが吸汁する際にイネの内部に吐き出している唾液に「NcSP75たんぱく質」という成分が含まれていて、これがイネから吸汁するために必要不可欠のたんぱく質で、その発現が抑えられるとツマグロヨコバイは成長が止まって死に至ることを掴んだ。
実験では、ツマグロヨコバイの3齢幼虫(この害虫は1~5齢幼虫を経て成虫になる)のNcSP75たんぱく質を抑制することでその影響をチェックしているが、ほとんどが成虫になる前に死亡することを確認している。また、メスの成虫をNcSP75遺伝子の働きを抑えてから交尾・産卵させたところ産卵数が約9分の1にまで激減することが分かった。
農研機構は「NcSP75はツマグロヨコバイしか持たない特殊なたんぱく質なので、この働きを選択的に阻害することができれば、ヒトや家畜、他の有益な昆虫などに影響しない、環境に優しい害虫防除技術の開発につながる」と今後の進展に期待をかけている。