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温室効果ガスを有用な化学原料に転換―低温で働く長寿命の「組みひも状」触媒を開発:物質・材料研究機構ほか

(2019年2月15日発表)

 (国)物質・材料研究機構の阿部英樹主席研究員と橋本綾子主任研究員、高知工科大学の藤田武志教授、東京工業大学の宮内雅浩教授らの研究グループは215日、主要な温室効果ガスであるメタンと二酸化炭素から有用な合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)を製造するために、全く新しい構造をもった触媒材料の創成に成功したと発表した。天然ガスの有効利用と、増え続ける温室効果ガス削減の突破口になるのではと期待が集まっている。

 一酸化炭素(CO)と水素(H)の混合ガスは、合成ガソリンやアルコールなどの化学製品の原料になる。これを主要な温暖化ガスであるメタン(CH4)と二酸化炭素(CO2)の混合ガスから首尾よく合成することができれば、地球温暖化の抑止と天然ガスの有効利用の一石二鳥が実現するとみられる。

 ところが低温(600度未満)で反応させると副生成物として固体の炭素(スス)が出るため、800度以上での高温反応が必要となり、燃費がかさむため実用化しなかった。特にススは触媒の働きそのものを不活性化し、生産効率を下げると同時に、反応装置も劣化させる厄介者で、実用化しなかった。

 研究チームは発想をガラリと変えて、触媒の形状をナノ(10億分の1)レベルの微細な空間で現れる位相幾何学的(トポロジー)な形状にすることで、ススの析出を抑え、低温で反応させることに成功した。

 作製法はニッケルとイットリウムを高温で溶かし合金にする。これを700度近い高温の中で一酸化炭素と酸素の混合ガス気流にさらすと金属と酸化物の相分離が起こる。極細繊維状のニッケル相と酸化イットリウム相があたかも組ひものように絡み合った特殊な構造ができた。

 従来の触媒とは全く違う独特の構造になることから、新たに「根留触媒」と名付け、「Ni#Y2O3」(ニッケル・ハッシュタグ・イットリア)と表記することにした。この触媒は500度未満の低温領域で、1,000時間以上も安定的に反応を促進したため、低温で長寿命の触媒効果があることが分かった。今後、複雑な構造の根留触媒のナノ構造が解明できれば、全く新しい機能を見つけることができるとみている。

 増え続ける温室効果ガスのメタンや二酸化炭素を大量に集めて工業規模で反応させることができれば、天然ガスの有効利用と地球の温室効果抑止につながるとみている。