気候変動による「影響の連鎖」を可視化―温暖化問題の理解や被害軽減策の検討にも貢献:国立環境研究所ほか
(2019年2月28日発表)
(国)国立環境研究所や筑波大学などの研究チームは2月28日、気候変動による影響がさらに他の被害をもたらすといった「影響の連鎖」を図で可視化することに成功したと発表した。多方面に渡る影響を理解することで、費用対効果を踏まえた温室効果ガス削減や被害軽減策「適応」の検討などに役立つことが期待される。
気候変動分野をまたがる影響の連鎖は分析が難しく、十分に調べられていなかった。2014年公表の国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(AR5)でも、分野・地域ごとに気候変動の影響がまとめられている。
研究チームは、気候変動の影響が起こりうる分野を、水資源・食料・エネルギー・産業とインフラ・自然生態系・災害と安全保障・健康の7分野に分類。AR5を利用して、各分野の専門家が文献調査を行ない、21世紀中に起こりうる影響を87項目に、影響を引き起こす気候変動要因を17項目にまとめた。さらに、各項目間の因果関係を調べ、256の「連鎖」についてネットワークを示す図やフローチャートの形で示した。
図は7分野ごとに作成した。「食料」では、気温の上昇や降水量の減少などが直接的に作物生産量の減少を引き起こし、生産減が食料の価格や貿易、流通などの問題にも波及することを明らかにした。さらに、食料供給や価格の変化によって、食料を入手できなくなる人が増え、居住地の移動を余儀なくされたり、新たな紛争が引き起こされたりする可能性も示している。図は、デザインの専門家と協力して作成した。
分野横断的な影響の連鎖は、英国やドイツ政府などが自国を対象として分析したケースはあるが、世界全体を網羅した事例はなく、学術論文としてまとめられたのも初めてだという。研究チームは「気候変動が自然環境だけでなく、社会経済、人間の生活に与えうる全体像を示すことができた。今後は、例えば影響の大きさや適応策の効果などの情報を取り入れることで、対策の検討に貢献したい」としている。