ニュートリノ実験で「CP対称性の破れ」解明に一歩前進―物質・反物質で電子型ニュートリノの出現頻度に差:T2K実験国際共同研究グループ/高エネルギー加速器研究機構ほか
(2016年8月7日発表)
茨城県東海村と岐阜県神岡町の素粒子実験施設間でニュートリノ実験を行っている国際共同研究グループ(略称T2Kコラボレーション)は8月7日、ニュートリノと反ニュートリノで電子型ニュートリノ出現が同じ頻度では起きない、いわゆるCP対称性の破れがあることを示唆する結果を得たと発表した。
現在の宇宙は物質から成り、反物質はほとんど存在していない、という自然界の謎の解明に一歩迫る成果である。
ニュートリノは電気的に中性の非常に軽い素粒子で、電子型、ミュー型、タウ型と呼ばれる3種類があり、長距離を飛行する間に別の種類のニュートリノに変化する「ニュートリノ振動」という現象を起こすことが知られている。
T2Kコラボレーションの研究陣は東海村の加速器でニュートリノを発生させ、295km離れた神岡町の検出器でこれを受けてニュートリノ振動をとらえるというT2K実験を2010年から開始し、これまでにミュー型ニュートリノから電子型ニュートリノへのニュートリノ振動の観測データを得ていた。
今回はミュー型ニュートリノの反物質である反ミュー型ニュートリノから反電子型ニュートリノへのニュートリノ振動の観測データを取りまとめ、両ニュートリノ振動現象の起き方に違いがあるのかどうかを調べた。
まだ20%程度のデータ取得にとどまっているが、ニュートリノと反ニュートリノでは、電子型ニュートリノの出現が同じ頻度では起きない、という結果を得た。
宇宙の始まりであるビッグバンで物質と反物質が同数生成されたが、現在の宇宙に反物質はほとんど存在していない。その原因は物質と反物質に何らかの性質の違いがあるためと考えられており、その性質の違いは「CP対称性の破れ」と呼ばれている。
今回の成果はニュートリノにCP対称性の破れがあることを示唆するもので、今後実験観測データを増やし、信頼性の高い結論を得たいとしている。