北極の雲に含まれる「氷晶」の発生原因が明らかに―空中のダストにより誘発されること実験で解明:国立極地研究所/気象研究所ほか
(2019年3月25日発表)
国立極地研究所、気象庁気象研究所、名古屋大学、東京大学の研究グループは3月25日、北極の雲に含まれる氷の微小な結晶「氷晶」の発生原因が分かったと発表した。北極圏の陸地から舞い上がったダスト(固体微粒子)によって誘発されていることを実験により明らかにしたもので、北極圏上空の氷晶形成プロセスを理解する上での重要な手がかりが得られたという。
北極圏の上空数百mから数kmには、凍結していない水滴と氷晶とが混在する混相雲(こんそううん)という雲が年間を通じて頻繁に発生し、その雲の中の氷晶は大気中を浮遊するエアロゾルと呼ばれる微粒子が核になって誘発されているものと考えられてきた。
しかし、北極の上空で実際に氷晶核となっているエアロゾルの正体はよく分かっていない。これまでの研究では、北極圏の海から放出される有機エアロゾルや、地球の低〜中緯度の乾燥地帯で発生して北極圏の空にまで運ばれてきたダストの寄与が指摘されているが、北極圏で夏に積雪が溶けて地面が露出すると発生するダストについては着目されていなかった。
今回の研究は、国際共同研究グループを形成して行われたもので、北極圏の氷河から流れ出した水流で形成された「アウトウォッシュ・プレーン」と呼ばれている堆積平野から雪が溶けて発生したダストが氷晶核になって雲の中の氷晶形成を強力に促進していることを実験により明らかにした。
研究には、北極圏のノルウェー領の総面積が約6万㎢のスバールバル諸島のアウトウォッシュ・プレーンで採取したダストを使い、国立極地研究所が開発した氷晶核計測装置「CRAFT」でその氷晶核としての能力を調べた。
その結果、アウトウォッシュ・プレーンのダストは、これまで言われていた低〜中緯度地帯の鉱物ダストより氷晶核としての能力が圧倒的に高く、微量含まれている有機物によってその能力が高められていることが分かった。
また、電子顕微鏡による観察などで夏のスバールバル諸島上空の氷晶核濃度の増加が海からの有機エアロゾルによるものではなく、スバールバル諸島やグリーンランドなどの陸地で発生したダストによる可能性が高いことを確認したという。