固体冷媒による新しい冷却法を原子レベルで解明―小さな圧力で大きな発熱・吸熱を確認、小型・省エネの冷却機開発へ:日本原子力研究開発機構/J-PARCセンターほか
(2019年3月28日発表)
中国科学院金属研究所と(国)日本原子力研究開発機構J−PARCセンターなどの研究グループは3月28日、液体と固体の中間の性質を持つ「柔粘性結晶」が、小さな圧力の加減でも巨大な熱量効果を引き起こすことを原子レベルで解明したと発表した。将来は代替フロンやコンプレッサー(圧縮機)を使わずに温室効果ガスも出さない、小型・省エネの新しい冷却技術の実現につながるものとみている。
食品貯蔵やエアコンなどの冷却には、冷媒のガスに断熱膨張・圧縮をかける方式が主流になっている。この冷媒には温室効果に強く影響する代替フロンガスが使われ環境負荷が問題になっていた。また冷却用コンプレッサーも電力消費が大きく、世界の電力消費の25~30%を占めているとみられる。
そこでガス冷媒の代わりに、環境負荷が少なくコンプレッサーなどの大型装置も使わない「固体冷媒技術」が注目されてきた。固体冷媒材料は電場や磁場、圧力などを加えると原子レベルで吸熱や発熱をする原理は分かっていたが、これまで発熱・吸熱量の大きな優れた材料が見つかっていなかった。
研究グループは液体と固体の中間の性質を持つ柔粘性結晶に注目。数種類の柔粘性結晶の中から、小さな圧力の加減で大きな熱量を得られるネオペンチルグリコール(NPG)結晶を見つけた。これは圧力による変化が、従来の固体冷媒より10倍も効果が大きかった。
さらにJ-PARCの中性子実験装置と、(国)理化学研究所の大型放射光施設SPring-8のX線解析などを使ってNPG結晶の原子レベルでの性質を調べた。また高圧と常圧をかけた際の圧力の効果も調べた。
その結果、NPGに圧力をかけると、結晶内の分子や原子が「自由に回転できる状態」から「結晶格子によって特定方向だけに振動している状態」に変わり、ミクロの“乱雑さ”であるエントロピーが大きな状態から小さな状態に変化する。その結果として巨大な圧力熱量効果が生じることを解明した。
つまり低圧では、温度は高温状態で分子は自由な回転をしているためエントロピーは大きくなり、高圧では低温状態に相当し分子は振動状態でエントロピーは小さいとの違いがわかった。
これによってより優れた性質をもつ圧力熱量効果材料を探す重要なヒントが得られ、設計が可能になったことから、次世代の冷却技術への応用が進むと期待される。