[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

世界の気温上昇1.5℃に抑えると洪水渇水の連続発生大幅に減る―パリ協定の目標をシミュレーション実験で評価:東京大学/国立環境研究所

(2019年4月2日発表)

 東京大学と(国)国立環境研究所の共同研究グループは42日、地球温暖化による世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えると、2.0℃上昇の場合より洪水と渇水(干ばつ)が連続して起こるリスクを大幅に減らせることが分かったと発表した。パリ協定で目標にしている温度上昇の影響についてシミュレーション実験した結果判明したという。

 米国のカリフォルニア州では近年、何百年に一度といわれるような大干ばつが起きた後ダムの決壊が心配されるほどの豪雨に見舞われている。このような渇水と洪水の両方が連続して起こる現象は、最近世界各地で頻繁に発生しており、地球温暖化が進むと地球上の水循環が活発になるためそれがさらに増えるのではと心配されている。

 地球温暖化防止の国際的な枠組みであるパリ協定は、世界の平均気温の上昇を産業革命以前と比べて2.0℃未満に抑えることを目指すとともに1.5℃以下に留めるよう努力することを求めている。

 このため、その両目標、1.5℃上昇と2.0℃上昇の影響がどう違うのかを示す科学的根拠が今様々な分野で求められている。

 しかし、洪水と渇水が連続して発生する現象にどのような影響が生じるかについては、これまで検討されていなかった。

 こうした状況のもとで文部科学省は、平均気温1.5℃上昇時と2.0℃上昇時の影響の差の評価などを目的とする「気候変動数値実験プロジェクト(HAPPIプロジェクト)」という名の気候変動シミュレーション実験に取り組んでいる。今回の研究は、その中の地球の水循環などへの影響を明らかにする実験の一環として行ったもので、大規模アンサンブル実験と呼ばれる予測シミュレーションによって1.5℃と2.0℃の温度上昇シナリオにおける湿潤(洪水)・乾燥(干ばつ)の変動を評価した。

 その結果、全球平均気温1.5℃上昇から2.0℃上昇へと0.5℃温暖化が進むと世界の多くの地域でその変動が激しくなって、カリフォルニアで起こったような極端な変動が将来起こりやすくなる可能性が示唆されたとし、気温上昇を1.5℃に抑えることで洪水と渇水が連続して起こるリスクを大幅に低減できることが分かったと結論している。