より良い選択肢決定へ―価値比較する脳の部位特定:筑波大学
(2019年4月5日発表)
筑波大学は4月5日、複数の選択肢から自分にとってより価値のある一つを選ぶ際に働く脳の部位を神経細胞レベルで突き止めたと発表した。サルを用いた実験で眼のすぐ上に位置する眼窩(がんか)前頭皮質が価値比較の情報処理をしていることを明らかにした。脳損傷で起きる行動決定傷害の治療や、買い物での商品選択行動の予測などマーケティング分野にも役立つと期待している。
筑波大の設楽宗孝教授、瀬戸川剛助教らの研究グループが、(国)産業技術総合研究所、米国国立衛生研究所(NIH)と共同で明らかにした。
研究グループは、これまでの研究から主観的な価値比較は眼窩前頭皮質が担っているとの仮説を立て、ヒトと近縁で脳の構造も比較的近いとされるアカゲザルを用いた実験によってより正確な位置の特定を試みた。
実験では、一定の作業をこなすとその報酬としてアカゲザルが水を飲めるようにした。このとき最終的に得られる報酬の量と、そのために必要な作業量をアカゲザルが比較しながら二つの選択肢の中からバーを押して選べるよう実験系を設定。アカゲザルの脳に差し込んだ電極で眼窩前頭皮質のどこが活動したかを記録できるようにした。
実験の結果、眼窩前頭皮質の多くの神経細胞の活動が二つの選択肢の価値の差と相関していることが分かった。二つの選択肢の価値の差が大きいほどアカゲザルにとってはより少ない作業量でより多くの報酬が得られるわけで、この部位が価値比較の情報処理をしていると判断した。その一方で、眼窩前頭皮質の神経細胞を薬剤で一時的に不活性化すると、より価値の低い選択肢を選ぶという非合理的な選択の頻度が明らかに上昇したという。
これらの結果から、研究グループは「眼窩前頭皮質はどちらの選択肢がより価値が高いかという価値の比較に関わる処理をしていることが示唆された」とみている。今後は眼窩前頭皮質で処理された「どちらの選択肢がより価値が高いか」を示す信号が、脳内のどの経路を通って実際の行動につながるのかを明らかにしていく。