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アブラムシが放出体液で巣を修復する仕組みを解明―進化の過程でかさぶた形成機能を増強し転用:産業技術総合研究所

(2019年4月16日発表)

 (国)産業技術総合研究所は416日、アブラムシが植物組織に作った巣の「虫こぶ」が敵に壊されたときに、兵隊幼虫が大量の凝固体液を放出して穴をふさぐ「自己犠牲的な虫こぶ修復」の仕組みを分子レベルで解明したと発表した。社会性アブラムシの社会活動と生物機能の驚くべき進化の理解に貴重な知見が得られたとしている。

 植物の害虫であるアブラムシは全世界に5,000種ほど知られ、そのうちの約80種はミツバチやアリのように社会を形成して生活している社会性アブラムシといわれる。

 研究グループは今回、イスノキという樹木に虫こぶを形成する社会性アブラムシのモンゼンイスアブラムシの社会活動である虫こぶ修復を詳細に調べた。

 虫こぶは成熟すると強固なものになるが、春期は組織が薄くて柔らかいため、ガの幼虫などの外敵昆虫に襲われ食害される。穴をあけられると、コロニー(集団)の防衛や巣のメンテナンス役を担っている兵隊幼虫が、直ちに巣から出てきて口で敵を刺して攻撃する。それ以外の兵隊は、開けられた穴の近くに集まり、体の尾端部から大量の乳白色の体液を放出して、足でかき混ぜ、引き伸ばし、穴を埋める。分泌された体液は次第に固まり穴が完全に塞がれる。

 この修復作業は多くの危険や犠牲を伴い、分泌体液におぼれたり、虫こぶの外に取り残されたりした個体は死ぬ。また、体液分泌で体の中身の大半を失い、幼虫のまま一生を終えたりする。虫こぶ内の兵隊はその後も植物組織に刺激を与え続け、虫こぶの壁が完全に再生するのはおよそ1か月後である。

 これまでに得られたこうした観察結果を踏まえ、研究グループは今回、分泌体液の化学組成や固まる仕組みなどを調べた。

 その結果、兵隊幼虫の体液には、虫こぶ修復のために特殊化した巨大な血球細胞が充満しており、体液が分泌されると細胞が崩壊して一連の化学反応が進行、強固な凝固物が形成されるというメカニズムが分かった。一連の化学反応では、まず脂質が固化、並行して分泌液凝固に重要な役割を果たすフェノール酸化酵素が活性化し、体液のメラニン化が進行、たんぱく質同士が架橋(かきょう)され、凝固塊が生成される。

 これは進化の過程で兵隊幼虫が自身の体表の傷を治す体液凝固(かさぶた形成)メカニズムを増強し、社会活動に転用して新たな生物機能を獲得した結果と考えられるという