ミュオンで水素脱離の仕組み観察―貯蔵材料の開発に指針:総合科学研究機構/高エネルギー加速器研究機構ほか
(2019年4月12日発表)
(一財)総合科学研究機構、高エネルギー加速器研究機構は4月12日、水素貯蔵材料として期待される水素化マグネシウム(MgH2)の高性能化に必要な特性を素粒子「ミュオン」で観察したと発表した。細かく粉砕したMgH2ほど水素が低温で物質内部を拡散し始め、水素の取り出し温度を低温化できることが分かった。実用化に欠かせない水素取り出し温度の低温化のための指針が得られたという。
MgH2は熱を加えると分解して水素を放出する水素貯蔵材料として期待されているが、実用化には水素の放出温度をいかに低温にできるかが重要な課題となっている。これまでもMgH2を粉砕加工することで200℃程度の低温化が可能なことは知られていたが、その詳しい仕組みは分からなかった。
そこで研究グループはJ-PARCセンターとも協力、世界最高クラスの大強度ミュオンビームを活用した「その場観察μSR法」と呼ばれる方法でMgH2の内部での水素の動きを追跡した。その結果、粉砕加工されたMgH2の表面から水素の脱離が進み、出来たすき間に別の水素が移動して順繰りに動いていくことで水素の脱離が進むことが分かった。その結果、水素の放出温度が低下するという仕組みが見えてきたという。
この結果について、研究グループは「物質内で脱離し始めた水素をいかに素早く取り除けるかが比較的低温での水素脱離反応に重要であることを示す」と見ており、今後のMgH2水素貯蔵の実用化に重要な水素脱離反応温度の低下への取り組みに明瞭な指針になると期待している。