AIハードウエア化へ有力技術―小型化でロボットに応用も:産業技術総合研究所
(2019年4月22日発表)
(国)産業技術総合研究所は4月22日、ロボット向けなどの小型AI(人工知能)実現に向けた新技術の実験に成功したと発表した。AIが学習する際に必要な計算処理を高集積化が可能なナノメートルサイズ(1nmは10億分の1m)の素子を用いて実現、これまで難しかったハードウエアによる計算処理の高信頼化に目途をつけた。小型の高密度AIの開発促進につながると期待している。
あらゆるモノがインターネットにつながるというIoT(モノのインターネット)や高度な学習能力を持つロボットを実現するため、AIのハードウエア化による小型化が期待されている。そこで産総研スピントロニクス研究センターの常木澄人研究員らは、東京大学の中嶋浩平特任准教授らと共同で新技術の実験に取り組んだ。
人間の脳の中では繰り返し同じ刺激を受けることで複数の神経細胞が相互のつながりを強化し学習するが、AIはその仕組みを人工的に模倣するニューラルネットワークを用いて学習能力を実現する。
今回の研究では、この時に必要な特殊な計算処理を「スピントルク発振素子」と呼ばれるナノメートルサイズの2枚の磁石で絶縁膜を挟んだ素子を複数用いて実行する実験に取り組んだ。ニューラルネットワークでは複雑な計算が必要だが、新技術はこうした計算をスピントルク発振素子が持つ固有の物理的特性を利用して実現できるようにしたもの。
実験では高周波磁界によって起きる複数の素子の同期現象を利用、常温下でもスピントルク発振素子による計算処理の短時間記憶容量を高めることに成功した。これまで常温下では素子内部の熱雑音の影響で計算の信頼性が低くなるという問題があったが、今回採用した強制同期によってその信頼性も高まったという。
そこで、単一のスピントルク発振素子を用いた人工ニューロンを作製して音声認識の学習実験を試みた。その結果、従来の技術では82%にとどまっていた正答率が99%以上になるなど飛躍的に向上、新技術が計算の信頼性を向上する手段として極めて有効であることが確認できたという。
研究グループは今後、新技術を用いたAIハードウエアを開発しIoT端末やロボットなどへの応用展開を目指す。