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活性汚泥中のわずかな微生物が水処理の性能を左右―重油などの分解に、新たな嫌気的反応が見つかる:産業技術総合研究所

(2019年5月13日発表)

 (国)産業技術総合研究所は513日、廃水中に混入した重油の分解の際に、微量の微生物が分解の効率を高めていることを発見したと発表した。微量の硝化細菌が介在して、重油分解菌にエネルギー源を与えることで働きを助けていた。新たな反応が原因不明の水処理トラブルの解明や、水処理エネルギーの効率化に大きく貢献すると期待される。

 活性汚泥は下水の浄化に使われる微生物群と有機汚泥などをいい、100年以上も前から下水処理に用いられてきた。現在は産業廃水の処理にも広く利用されている。

 しかし数千種以上の微生物が関与する複雑な水処理メカニズムとあって解明が難しかった。特に分解されにくい重油が廃水に混入し、活性汚泥の微生物反応を邪魔するトラブルは頻繁に発生しているものの、対策は技術者の経験と勘に頼らざるを得なかった。

 廃水処理にかかるエネルギーは、日本の年間消費電力量の約0.7%にも相当するだけに、水処理の高効率化は急務となっている。産総研は微生物遺伝子の多様性を調べる解析法(メタトランスクリプトーム解析法)を独自に確立してきたが、重油を含む廃水処理の活性汚泥処理に適用し、詳細な機構の解明に取り組んだ。

 微生物は環境変化に対応するために、必要な酵素を必要な量だけ発現して目的の化学反応を進めている。そこで発現した遺伝子の種類と量を調べ、微生物によってどのように化学反応するかを探った(トランスクリプトーム解析)。

 微生物は酸素による呼吸でエネルギーを獲得するものが多いが、今回検出された重油分解菌のほとんどは硝酸を使った呼吸でもエネルギーを獲得できる種だった。

 活性汚泥に含まれる硝化細菌は、有機物を含む廃水の処理過程で蓄積したアンモニアから硝酸を生成する。重油分解菌はその硝酸を使ってエネルギーを得たと考えられる。重油分解菌と硝化細菌との間には間接的な共生関係があるとみられる。

 今回の反応槽の活性汚泥中の細菌の存在量を調べると、重油分解菌が40%であるのに対して硝化細菌はわずか0.25%未満と少なかった。これまでは一般的に存在量の多い微生物ほど反応に重要な役割を持つとみていたが、ここでは存在量がわずかな微生物でも重要な働きをしているという稀な事実を見つけた。

 また酸素が存在していても、実際には微生物は嫌気的に重油を分解していることも明らかになった。難分解性化合物の分解は嫌気的に処理されていることを裏付ける事例の1つであり、新たな反応メカニズムの発見にもつながりそうだ。