超高精度の「光格子時計」で標高差の測定に成功―火山活動の監視など常識を超える新たな利用の道拓く:東京大学/国土地理院ほか
(2016年8月16日発表)
東京大学と国土交通省の国土地理院は8月16日、共同で次世代の原子時計といわれている「光格子時計」を使い、時間ならぬ土地の標高差をセンチメートルレベルの高い精度で測定することに成功したと発表した。
光格子時計は、東大大学院工学系研究科の香取秀俊教授が考案した高精度な原子時計。今回の成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業の「香取創造時空間プロジェクト」と文部科学省の「先端光量子科学アライアンス」の研究の中で得られた。
光格子時計により離れた地点間の標高差をリアルタイム(実時間)で高精度に計測できることを示したのは世界でも初めて。時々刻々と変わる標高差が見られるようになることから、火山活動をはじめとする地殻の変動の監視、潮位の観測など、時計の常識を越える新たな利用が可能になると研究グループはいっている。
水晶の振動を利用して1秒を測っているクオーツ時計は、ゼンマイ式時計より遥かに高精度だが、100万〜1,000万秒につき1秒ずれる。
それに対し、セシウム原子から出る電磁波の周波数を計測する原子時計のくるいは、6,000万年に1秒と少なく、テレビ局や携帯電話の基地局など正確な時間や周波数を必要とする様々な用途に利用されている。
香取教授が考案した光格子時計は、「光格子」と呼ばれる光の波長より小さな領域に原子を閉じ込める方式の原子時計で、現用のセシウム原子時計の性能を100倍近く上回ることが確認されている。
実験は、その光格子時計を東京・本郷(文京区)の東大に1台、埼玉・和光市の理化学研究所に2台の計3台設置し、直線距離で約15km離れた東大と理研の間を約30kmの光ファイバーで接続して行われた。
その結果、理研より約15m低い位置にある東大の光格子時計の振り子の方が1,652.9×10のマイナス18乗だけゆっくり振動することが観測され、リアルタイムで2地点間の標高差を誤差5cmの高い精度で計測できることが分かった。
日本の土地の高さ(標高)は、東京湾の平均海面を基準(標高0m)にして測られ、計測は水準儀を使う水準測量によって行われている。
しかし、水準測量には、数日から数カ月にわたる時間がかかり、測定距離によって累積誤差が生じる難点がある。
それに対し今回の計測法は、リアルタイムで測定できると共に、測定距離による累積誤差も生じない。
研究グループは、各地に光格子時計を設置して新たな高さの基準「量子水準点」を形成し、それらをネットワーク化する「時計のインターネット」構想を提案している。