動物の左右対称の体はどこから?―起源めぐる論争に一石:筑波大学
(2019年5月27日発表)
筑波大学は5月27日、脊椎動物など体の右と左がほぼ対称的な左右相称動物の起源に一石を投じる研究結果を発表した。海底に生息する無腸動物などのゲノム(全遺伝情報)を解析、分類学で珍渦虫と無腸動物からなる珍無腸動物門を起源とする説に疑問を示した。珍無腸動物の研究を基にした左右相称動物の起源や進化に関する従来の仮説は、すべて見直しが必要としている。
筑波大 下田臨海実験センターの中野裕昭准教授ら世界11カ国25人からなる研究グループが明らかにした。
ヒトなど脊椎動物を含むほとんどの動物は左右相称動物。現在地球上に存在する動物は分類学上約35の動物門に分かれるが、このうち左右相称動物に含まれないのは海綿などの海綿動物門、クラゲやサンゴという刺胞動物門など4つだけとされる。
肛門や腎臓などの排出器官を持たない単純な海生生物の珍無腸動物については、①左右相称動物の中でも進化の初期に枝分かれしたという「祖先的な左右相称動物説」、②ヒトも含む新口動物の一員とする「新口動物説」の2説が唱えられている。ただ、珍無腸動物については進化学や系統学的な位置づけが十分に解明されていなかった。
そこで研究グループは、珍無腸動物門6種の細胞核にあるゲノムのデータと、4種の細胞内に存在する全RNAデータなどを詳しく解析、どのような進化経路を経たかを調べた。その結果、珍無腸動物門が左右相称動物の中でも進化の初期に枝分かれしたとする「祖先的な左右相称動物説」では説明が難しいことが分かった。むしろ、ヒトを含む新口動物の中でも、ウニやナマコといった棘皮動物などと姉妹関係にあることが明らかになった。
この結果から、中野准教授は「珍無腸動物門の単純な体は共通祖先の特徴を残しているのではなく、複雑な体の祖先から単純化して生じた可能性が示唆された」と話している。