近赤外光を可視光に変える固体材料を溶液塗布法で実現―太陽電池や人工光合成の効率向上に向け前進:産業技術総合研究所
(2019年5月30日発表)
(国)産業技術総合研究所は5月30日、波長の長い近赤外光を、波長の短い可視光に変換する固体材料を、溶液塗布法で実現したと発表した。ペロブスカイト太陽電池や人工光合成などの太陽光利用技術の効率向上につながる成果という。
波長の長い、光子のエネルギーが低い光を、波長の短い、光子のエネルギーが高い光に変換することを光アップコンバージョン(UP)といい、近年、有機色素分子間の「三重項‐三重項消滅(TTA)」と呼ばれる現象を利用したTTA-UCが、太陽光利用技術に適用できるUCとして注目されている。
効率向上を目指して開発が進んでいるペロブスカイト太陽光発電や人工光合成では、現在のところ利用できる太陽光の成分は限られ、波長が750nm (ナノメートル、1nmは10億分の1m)より長い、光子のエネルギーが低い近赤外光はほとんど使われていない。
太陽光の長波長成分を短波長に変換できれば、これらデバイスの変換効率を実質的に高められる。このため、本体の効率向上と並んでUPの開発が進められているが、従来のTTA-UPはほとんどが溶液系で、揮発や封止問題など取り扱いが難しく、固体の材料が求められていた。
産総研は今回、岩手大学、奈良先端科学技術大学院大学、大阪大学と共同でこの開発に取り組み、迅速乾燥キャスト法と名付けられた溶液塗布法を用い、近赤外光を可視光に変換する固体材料を簡単に作製する技術を開発した。
近赤外光を吸収する金属錯体(さくたい)分子を新たに合成し、これを発光材料中に均一に分散させたままでガラス上に塗布し固化させる。この固体材料に近赤外光を照射すると、黄色の可視光発光が得られるという。
この材料の光アップコンバージョン(UC)過程のメカニズムを解明し、各中間過程の効率を特定して、効率向上の指針を得た。
今回開発した固体材料は、セキュリティーインクやディスプレーなどの表示用途が期待されるほか、今後効率が向上すれば、ペロブスカイト太陽電池や人工光合成などの太陽光変換デバイスの効率向上につながることが期待されるとしている。