微生物による有用物質生産―効率向上に新遺伝子改変技術:産業技術総合研究所
(2019年6月6日発表)
(国)産業技術総合研究所は6月6日、抗生物質などの有用たんぱく質を微生物に効率よく作らせる新技術を開発したと発表した。微生物に組み込むたんぱく質の遺伝子の一部にあるDNA配列を最適化する手法を突き止めた。遺伝子配列の先頭部分だけを改変すれば効果的に生産性を上げられるため実用性が高く、さまざまな微生物に応用できると期待している。
微生物に他の生物の遺伝子を人工的に組み込んで、その微生物が本来は作れない有用たんぱく質を生産させることは広く実用化している。このときに導入する遺伝子のDNA配列のうち、たんぱく質を構成するアミノ酸配列には直接関係しないDNA配列「コドン」を最適化すれば、有用たんぱく質の生産効率を上げられることが分かっている。
そこで産総研は今回、バイオ産業で広く使われる放線菌によるたんぱく質生産の大規模な実験データを用い、放線菌の204個の遺伝子配列の特徴とたんぱく質の生産量の関係を数理学的に解析した。その結果、たんぱく質の生産には遺伝子配列の先頭部分が特に重要で、その生産量に大きな影響を与えていた。そのため、有用たんぱく質の生産を効率化するためには、その遺伝子配列の先頭部分にある約10コドン分を最適化するだけで効果的なことが分かった。
アミノ酸50個で構成される小さなたんぱく質の生産性を上げようとすると、一般にコドンの数は約150個にも上る。そのためこれまでは1億の4乗通りにも上る最適化パターンの中から答えを探さなくてはならなかった。それに対し今回は、最適化すべきコドンの数を約10個に絞り込めたため5万9千通りと大幅に削減できる。
新手法の有効性を調べるため、12個の遺伝子のコドンを最適化して放線菌に組み込んでたんぱく質の生産量を評価した。その結果、最適化しなかった場合に比べて9個の遺伝子でたんぱく質の生産量が増大したことが確認できた。
産総研では、新手法について「大腸菌などさまざまな微生物に応用できる可能性がある」としてみており、今後その有効性を実証していく。