機械学習で望みの高分子を設計―新手法で熱伝導率80%向上:物質・材料研究機構ほか
(2019年6月26日発表)
(国)物質・材料研究機構と情報・システム研究機構 統計数理研究所、東京工業大学は6月26日、機械学習を活用して高分子材料の熱伝導率を約80%向上させたと発表した。新材料開発に欠かせない熱伝導率の物性データは少なかったが、こうした“スモールデータ”を利用して熱伝導率を高精度に予測する新しい機械学習の手法を独自に開発して新材料を突き止めた。
高分子の熱伝導率は一般に金属やセラミックスに比べると非常に低いが、最近の研究で特異的に高い熱伝導率を持つ高分子の存在が分かってきた。そこで研究グループは、物材機構が持つ世界最大級の高分子物性データベースと機械学習を利用して新しい高分子材料の開発に取り組んだ。
データベースには開発対象となる高分子に関連した室温付近での熱伝導率データは28件しかなかった。そこでガラス転移温度など大量に存在する他の物性データを利用して機械学習モデルを訓練し、そこでモデルが得た「記憶」と熱伝導率に関する少数のデータを組み合わせて、熱伝導率を高精度に予測できるようにした。
研究グループは、新手法を使って高い熱伝導率を持つと想定される高分子を1,000種類見つけた。この中から実際に3種類の高分子「芳香族ポリアミド」を合成したところ、最大で熱伝導率が0.41W/mKに達することが分かった。典型的なポリアミド系高分子と比較すると熱伝導率が約80%向上したほか、耐熱性や有機溶媒への溶けやすさ、フィルム加工の容易さなど、実用化に必要な特性も持っていることが確認できた。
一般に材料データを取得するコストは高くつくほか、情報漏洩の観点からデータの公開を避ける研究者が少なくない。とりわけ高分子材料の研究では利用できるデータが少なく、こうした“スモールデータ”を基にどれだけ効率よく新材料を設計できるかが大きな課題となっていた。