たんぱく質の天然変性領域を標的とした創薬に道―がん抑制たんぱく質p53の医薬品候補ペプチドを発見:東北大学/産業技術総合研究所ほか
(2019年6月28日発表)
東北大学、(国)産業技術総合研究所、立命館大学の共同研究グループは6月28日、たんぱく質の天然変性領域をターゲットとした創薬法を開発したと発表した。この手法を用いて、天然変性領域を持つがん抑制たんぱく質p53の機能を制御する医薬品候補の人工ペプチドを発見したという。
一般に医薬品は、疾患に関与するたんぱく質の特定の立体構造に結合して、その機能を阻害あるいは促進する働きをする。そこで創薬では、たんぱく質の特定の立体構造にコンピュータ上で様々な化合物を結合させ、その成果をもとに医薬品候補を絞り込み、医薬品開発を効率的・合理的に行っている。
ところが、特定の立体構造を持たない領域、すなわち「天然変性領域」は、絶えず構造が変化するため、特定の構造としか結合できない医薬品候補の化合物とは強く結合できず、従来の絞り込み手法では、たんぱく質の天然変性領域をターゲットとした医薬品の開発は困難だった。
しかも、特定の構造を持たない天然変性領域を含むたんぱく質は全たんぱく質の約30%も占め、天然変性領域はアルツハイマー病やがんなどの疾患に関わっていることが明らかになってきている。
研究グループは今回、この天然変性領域のアミノ酸配列情報のみを使用し、計算機内で、この領域に特異的に結合する医薬品候補ペプチドを迅速に設計する方法を開発した。
具体的には、MJエネルギーと名付けられたアミノ酸ペア結合エネルギーを使って、ターゲットたんぱく質の天然変性領域に結合する候補ペプチドを迅速に絞り込む。ペプチド全体で、MJエネルギーができるだけ大きくなるような配列を選ぶことで、強く結合するペプチドを設計できる。
この方法を用いて、8×1016通りの膨大な数のペプチド群から、天然変性領域を持つがん抑制たんぱく質p53の機能を制御する人工ペプチドを見出すことに成功した。今後、たんぱく質の天然変性領域を標的とする創薬研究の加速が期待されるとしている。