骨が作られる過程を可視化することに成功―新しい顕微鏡技術使い世界で初めて実現:大阪大学/産業技術総合研究所ほか
(2019年7月4日発表)
大阪大学、(国)産業技術総合研究所などの共同研究グループは7月4日、骨芽細胞(こつがさいぼう)が骨を作っていく初期過程を生きたままナノレベルの解像度で可視化することに世界で初めて成功したと発表した。これまでできなかった生きたままでの観察を2つの新しい顕微鏡技術を併用して行えるようにした。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や歯周病など歯や骨の疾患の新規治療法開発につながることが期待される。
骨芽細胞は、骨を作る細胞で、古くなった骨を壊す細胞の破骨細胞と共に骨の新陳代謝を担っていて、この2つの細胞のバランスが崩れると骨粗鬆症などが生じる。
研究を行ったのは、大阪大学大学院歯学研究科の岩山智明助教、村上伸也教授、産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門、ライオン(株)のグループで、骨組織が作られる初期過程で骨芽細胞から放出される大きさが数十から数百㎚(ナノメートル、1㎚は10億分の1m)の超微小な「基質小胞」と呼ばれる骨の素の形成・分泌の過程を生きたままの状態で観察することに成功した。
基質小胞が電子顕微鏡を使って最初に観察されたのは、50年以上も前だが、その形成・分泌の過程の解明はこれまで進んでいなかった。
理由は、生きたまま観察できる手段がなかったため。
微小な生きた生物を観察する最も一般的な手段は、光学顕微鏡だが、可視光の最も短い波長を用いても観察できる限界は200㎚前後で、それより微細な生物は像がぼやけてしまう。電子顕微鏡は、原理的には数㎚以下の大きさまで観測できるものの、観察物を薬品で化学処理した上で真空中に置かねばならないため細胞を生きたままの状態で直接観察することはできなかった。
それを研究グループは今回、産総研が2014年から開発を進めている「走査電子誘電率顕微鏡(SE-ADM)」と呼ぶ細胞などの生物試料を生きたまま直接観察できる新顕微鏡と、可視光の限界以下の分解能に到達し物理法則を打ち破ったとして開発者の米独3人の研究者がノーベル化学賞を受賞している「超解像蛍光顕微鏡」とを併用することで突破、培養細胞が基質小胞を形成・分泌する過程を生細胞のまま可視化できるようにした。
その結果、細胞内に蓄積された基質小胞は、リソソームと呼ばれる細胞内の小器官によって運搬されて細胞外に分泌されていることが分かった。
研究では、SE-ADMを使い様々な形状と大きさをした基質小胞の生きた画像を得ている。