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日本型イネにおける除草剤抵抗性遺伝子HIS1を発見―トリケトン系除草剤を水酸化して不活性化:埼玉大学/農業・食品産業技術総合研究機構

(2019年7月24日発表)

 埼玉大学と(国)農業・食品産業技術総合研究機構の共同研究グループは7月24日、除草剤への感受性や抵抗性を決定する、日本型(ジャポニカ)イネにおける単一遺伝子HIS1を発見したと発表した。この遺伝子に欠損があるとイネはトリケトン系除草剤に侵され、正常だと抵抗性を示す。除草剤抵抗性に関する一連の新知見を活用することにより、今後より有効な雑草管理が期待されるとしている。

 水田の雑草の防除用に開発されて広く用いられているトリケトン系除草剤BBC(ベンゾビシクロン)を散布した水田で、近年、飼料用イネなど一部の品種に苗の枯れ死が見つかった。

 そこで研究グループはこの問題の解明を目指して原因遺伝子の究明に取り組み、今回原因遺伝子を特定するとともに、この遺伝子から作られるたんぱく質が除草剤を不活性化する仕組みなどを解明した。

 具体的には、トリケトン系除草剤BBCに感受性を示す品種、つまりBBCで枯れる品種の遺伝子解析を実施し、目的の遺伝子HIS1を見出した。この遺伝子はトリケトン系除草剤を不活性化する酵素をつくる働きをする。

 この酵素(HIS1たんぱく質)の作用機構などを調べたところ、HIS1たんぱく質がトリケトン系除草剤を水酸化し、除草剤としての機能を失わせることにより日本型イネは除草剤で枯れないことが分かった。

 一方、除草剤に弱い飼料イネなどの品種では、HIS1遺伝子が機能を失っていること、この機能欠損型HIS1遺伝子が東南アジアの稲品種に由来することを見出した。この除草剤感受性品種に正常なHIS1を発現させると、BBCおよびその他4種類のトリケトン系除草剤への抵抗性が認められた。

 研究グループは、さらに生物のゲノムデータベースを探索し、イネ科作物には共通して、HIS1に類似するHIS1-LIKE(HSL)遺伝子群が存在することを見出し、HIS1に高い相同性を持つOsHSL1遺伝子を発見した。双子葉の実験モデル植物を使った実験で、この遺伝子は1種類のトリケトン系除草剤にのみ抵抗性を示す新たな除草剤抵抗性遺伝子であることが明らかになった。

 これらの成果は、膨大な数のイネ系統の中に有用な遺伝子資源がまだ多く眠っていることを示唆するもので、この分野の研究の今後の開拓・進展が期待されるとしている。