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ヒトにだけ起きる動脈硬化―進化の過程で失われた遺伝子が関与:筑波大学

(2019年7月23日発表)

 筑波大学は723日、人類が進化の過程で200万~300万年前に失った遺伝子が心臓病や脳梗塞の原因とされる動脈硬化に関係している可能性があることが分かったと発表した。ヒト以外のほぼすべてのほ乳類が持つこの遺伝子を失ったことで、ヒトは人畜共通感染症にかかるリスクを低くできたとみている。動脈硬化の予防や治療法に新たな道が開けると期待している。

 筑波大学 医学医療系の川西邦夫助教らの研究グループが米カリフォルニア大学サンディエゴ校で進めた研究で明らかにした。

 人類が失ったのは、ほ乳類の細胞表面を覆う無数のヒゲ状物質「糖鎖」の一部に化学変化を起こす酵素「CMAH」の遺伝子。一方でこの遺伝子を持っているチンパンジーは、血清コレステロールや中性脂肪、血圧が高いにも関わらず動脈硬化がきわめて少ないことが知られている。

 そこで研究グループは、この遺伝子が動脈硬化とどのように関係しているかを探ることにした。まず遺伝子操作によってヒトと同様にこの遺伝子が働かない遺伝子欠損マウスを作製、牛や豚の赤身肉を過剰に与えた場合の影響を調べた。その結果を遺伝子改変していない野生型マウスと比較したところ、遺伝子改変型マウスには野生型マウスに比べてより進んだ動脈硬化が見つかったという。

 赤身肉には、ヒトが失った遺伝子が作る酵素「CMAH」によって化学構造の一部が変化した糖鎖が多量に含まれている。このためヒトと同じように遺伝子を改変したマウスが赤身肉を過剰摂取した場合、その体内に赤身肉の改変糖鎖を攻撃する抗体ができて炎症を起こし、動脈硬化を悪化させていることが分かった。

 この結果について、研究グループは「進化の過程でヒトと他のほ乳動物との間に生まれた糖鎖の違いが、ヒトの動脈硬化のリスク因子となりうることが示唆された」とみている。