日本列島の成り立ちなどを語る「地質図幅」を刊行―地滑り災害の対策や、新たな観光名所としての期待が膨らむ:産業技術総合研究所ほか
(2019年7月31日発表)
(国)産業技術総合研究所地質調査総合センターの遠藤俊祐客員研究員と、高知大学の横山俊治名誉教授は7月31日、高知県北部の四国山地「本山地区」の地質調査の成果として、5万分の1の地質図幅(ずふく)「本山」を刊行すると発表した。この地区は約2億年にわたって海洋プレート(固い岩盤)が潜り込み、その一部は地下深部から上昇した岩石が複雑に折り重なった状態で露出している。実際に目で見たり触れたりできる世界でも珍しい地球深部活動の“窓”ともいえる。
日本列島は約5億年前からプレートの沈み込み帯の上で発達してきた。沈み込み境界の浅いところには、海洋プレートに乗って運ばれた堆積物や岩石(付加体)が陸側に押し付けられた地層が生じ、深く引きずり込まれた岩石は高圧変成岩に変化する。
本山地域には年代が異なる3つの地質帯が約800Kmにわたって帯状に広がっている。約2億年前以降のジュラ紀の付加体が分布する「秩父帯北帯」、前期白亜紀の変成岩が分布する「御荷鉾(みかぶ)帯」、約9,000万年前の後期白亜紀の変成岩が分布する「三波川(さんばがわ)帯」だ。
同センターは全国各地の地質を調査、研究し5万分の1の地質図幅の整備を進めてきた。この中で本山地域は日本列島の成り立ちを理解するために学術的に非常に重要な地質帯が露出しており、2013年以降、綿密な地質調査と研究に取り組んできた。
研究の目的は、地層を構成する岩石が「いつ」「どのように」して沈み込み境界から“地下の旅”を続け、四国山地に現れたのかを明らかにすること。現地で露出した岩石の観察と採取を繰り返し、研究室に持ち帰って詳細な分析をし、地質構造を明らかにした。
共通の特徴をもつ岩石群を基に8つの「ユニット」に区分し、それぞれ見つかったひすい輝石や蛇紋岩などの変成岩から温度や圧力条件を割り出し、岩石が作られた深さやユニット同士の関係などから沈み込む前の位置関係を復元した。
その結果、約9,000万年前以降に三波川帯や御荷鉾帯の高圧変成岩が、プレート沈み込み境界深部から地層の折りたたみを繰り返しつつ上昇し、その上にあった秩父帯北帯の付加体が正断層運動によって南方に移動し、現在の地質構造ができたと推定している。
完成した地質図幅は、産総研が提携する委託先により8月から販売を始める。地質図幅を手にすることで、日本列島や西南日本の成り立ちと歴史などが理解しやすくなるという。
プレートの沈み込み帯は直接見ることが難しい。折り重なるようにしてできた地質構造が密集して露出している地域は世界的にも非常に珍しいだけに、防災、減災研究だけでなく、地球深部の活動を見る「窓」として観光名所になりそうだ。