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内視鏡によるがん手術後の炎症抑える新被覆材を開発―市販品の10倍の接着性持ち、体内で分解される:物質・材料研究機構ほか

(2019年7月30日発表)

 (国)物質・材料研究機構と鹿児島大学の共同研究グループは730日、内視鏡による消化管がんの手術で生じる傷をふさいで炎症を抑える粒子状の新被覆材を開発したと発表した。生体組織との接着性が市販されているシート状被覆材の約10倍にも達するほか、体内で分解されて消失するため取り除く必要がない、患部に内視鏡で吹き付けることができる、という優れた特徴を持っており、臨床試験はまだだが実用化が期待される。

 消化管は、口から肛門までの食物が通る管のこと。この管の最も内側の粘膜層から発生するがんを消化管がんといい、最近ではごく早期に見つかれば内視鏡を使って病巣の粘膜層を切除する「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」と呼ばれる治療が行なわれるようになってきている。

 しかし、開腹しなくて済むESDにもまだいくつか課題がある。その一つとして挙げられているのが切除によってできた傷をふさいで炎症を抑える被覆材。正式には「創傷被覆材」というが、現在使われているシート状のものは患部に届け難い、組織との接着性が低い、炎症が生じる、といった難点があるといわれている。

 今回の新被覆材は、その課題を物材研 機能性材料研究拠点の西口昭広研究員と田口哲志グループリーダー、鹿児島大大学院の井戸章雄教授らの研究グループが今のようなシート状ではなく微細な粒子にして吹き付けるという全く新しい発想で突破することを目指し開発した。

 粒子1つの大きさは、マイクロメートルサイズ(㎛、1㎛は100万分の1m)。ブタ由来のゼラチン(動物の皮膚などを構成するたんぱく質)にオクタノイル基という基を付けた疎水化ゼラチンを合成し、スプレードライ法(噴霧乾燥法)で粒子化する方法で作った。がん組織を切除してできた傷に内視鏡用の噴霧装置で容易に吹き付けることができる。ブタへの試験では、市販の被覆材の約10倍の接着強度を記録しているという。

 また、実験用に飼われているミニブタ(小型のブタ)の胃に人工的に腫瘍(しゅよう)を作って合成した疎水化ゼラチン粒子を噴霧し、その後の治癒の過程を組織学的に観察したところ、粘膜組織の炎症が軽減され、疎水化ゼラチン粒子が生体組織の修復に伴い分解・吸収されることが分かった。

 物材機構と鹿児島大は、引き続き連携して動物への有効性・安全性を調べる前臨床試験を進めることにしている。