分子性有機物質で、異常に大きく減衰した格子励起発見―電子誘電性の発現機構の解明に期待:総合科学研究機構/東北大学/ J-PARCセンター
(2019年8月8日発表)
一般財団法人総合科学研究機構と東北大学金属材料研究所、J-PARCセンターは8月8日、「分子性有機物質」と呼ばれる有機分子の集まってできた物質において、異常に大きく減衰した格子励起を発見したと発表した。特異な性質や性能を持つ分子性有機物質の電子誘電性に関わる発見で、電子誘電性発現の機構の解明などが期待されるという。
電場によって、+と-の電荷を帯びた格子の位置がずれたり、電子が偏ったりすることを電気分極と呼び、電気分極が生じる性質を誘電性という。その中でも電子の偏りやスピンによって引き起こされる誘電性を電子誘電性といい、近年この現象が注目されている。
研究グループは今回、電子誘電性の発現が期待される分子性有機物質を試料とし、中性子非弾性散乱を用いて物性を調べた。この試料物質は、分極の要因となる電子の偏りを示す現象がこれまで明瞭には観測されていなかったため、誘電性の起源について議論を呼んでいた。
中性子非弾性散乱実験の結果、2.6meV付近に観測される格子励起の減衰因子が絶対温度60K以下で顕著に増大し、格子励起の寿命が極めて短い異常な状態(過減衰状態)になることが見出された。
試料の分子性有機物質は、2つの分子が強いバネで1ユニットにまとまった2量体が、隣接するユニット同士弱いバネで結び付いた構造の物質で、2量体の振動は波として物質中に伝搬する。物質を構成している分子や格子に起こるこの波が格子励起で、今回、格子励起が異常に大きく減衰した状態を発見した。
この状態は、物質中を動き回っているパイ電子が分子上に徐々に局在化する50-60K以下で始まり、さらに低温の27Kでパイ電子の電荷とスピンがそれぞれ秩序化するのと同時に解消した。このことは、パイ電子の動きと格子励起が密接に関係しあっていることを示している。
また、この物質が示す誘電性は、電荷やスピンの自由度により分極が発生する電子誘電性由来であることも明らかになったという。
今回の成果を端緒に、今後、分子性有機物質の多彩な性質と結び付いた格子の研究が中性子散乱実験により加速することが期待されるとしている。