日本海溝の詳細なスロー地震分布図を作成―スロー地震多発域が東北地震の破壊を止めた:京都大学/防災科学技術研究所ほか
(2019年8月23日発表)
京都大学防災研究所、(国)防災科学技術研究所などの共同研究グループは8月23日、日本海溝の詳細なスロー地震分布図を作り2011年の東北地方太平洋沖地震を解析したところ、海底の破壊がスロー地震多発域で停止していたことが分かったと発表した。日本海溝全域にわたるスロー地震の詳細な分布図が作成されたのは初めて。
スロー地震は、普通の地震よりもゆっくりとした断層の滑りによって発生する地震のこと。ゆっくり地震、サイレント地震とも呼ばれ、海溝型巨大地震発生域の周辺で生じることが分かっている。このため、スロー地震と巨大地震の関係が盛んに研究され、将来巨大地震の発生が心配されている西南日本の南海トラフでは既に詳細なスロー地震の分布が明らかになっている。
しかし、東北地震が発生した日本列島の太平洋側沖を南北に走る日本海溝の詳細なスロー地震分布は謎に包まれた状態で、スロー地震と東北地震の関係はこれまで分かっていなかった。
そこで、京大防災研の西川友章JSPS特別研究員らと、防災科研、東北大学、東京大学の共同研究グループは、日本海溝の地震や津波の発生をリアルタイムで観測している防災科研の「日本海溝海底地震津波観測網(S-net)」や、国土地理院の地殻変動を連続して観測しているシステム「GEONET」などの観測データを駆使して日本海溝のスロー地震分布図作りに取り組んだ。
その結果、1991年から2018年までの日本海溝全域にわたる詳細なスロー地震分布図を得ることができ、研究グループはその分布図に基づいて日本海溝を北部、中部、南部の3つのセグメント(エリア)に分割してそれぞれのスロー地震発生状況の解析を試みた。
すると、岩手県沖に位置する北部セグメントと茨城県沖に位置する南部セグメントでは活発なスロー地震活動が観測され、対照的に東北地震の際に断層の滑りが特に大きかった宮城県沖の中部セグメントはスロー地震活動が極めて低調であることが判明。東北地震の破壊が南北両セグメントのスロー地震多発域で止まっていたことが分かった。
さらに、1930年以降に日本海溝沿いで発生した大地震と今回得たスロー地震分布図を比較したところ、それらの大地震でもスロー地震多発域は大きく滑っていないことが分かったという。