光反応中の分子の構造変化を追跡可能に―原子レベルの時空間分解能で分子動画を作成:高輝度光科学研究センター/理化学研究所/高エネルギー加速器研究機構
(2019年8月9日発表)
高輝度光科学研究センターと理化学研究所、高エネルギー加速器研究機構は8月9日、ドイツ、スイス、ハンガリー、イギリスの研究者らと共同で、「核波束振動」と呼ばれる超高速の分子振動を、原子レベルの高い時空間分解能で追跡することに初めて成功したと発表した。
これは、「光反応中に分子がどのように動くのか」を観測して理解するための「分子動画」の実現に相当するもので、光反応の解明への貢献が期待されるという。
研究グループは今回、0.1nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)以下の世界最短波長のX線レーザーを発振する能力を持つ、理化学研究所と高輝度光科学研究センターの共同施設「X線自由電子レーザー(SACLA)」を使い、金属錯体分子における核波束振動を追跡した。
この金属錯体は、光増感剤として期待されている銅(Ⅰ)フェナントロリン錯体と呼ばれる物質で、光を吸収すると、正四面体型から平面型へ構造が変化することが知られている。この構造変化に核波束振動がどのように関連しているのかを、時間分解X線吸収分光法という手法で調べた。
実験によると、100兆分の1秒の時間幅と100億分の1mオーダーの波長を併せ持つX線自由電子レーザーは、光反応中の銅(Ⅰ)フェナントロリン錯体の構造を時間的にも空間的にもピンボケすることなく鮮明に捉え、分子動画を作成することができた。
その結果、光反応の進行中に3つのタイプの核波束振動があることを発見した。1つは分子中の銅原子と窒素原子の結合長が足並みをそろえて伸縮する振動、残り2つは、銅原子と窒素原子の結合の角度が変化する変角振動だった。
これらの核波束振動の寿命の違いから、銅(Ⅰ)フェナントロリン錯体の平面型への構造変化に強く関連しているのは2つの変角振動であることが分かったという。
今回用いた観測手法は、分子のどのような動きが光反応を駆動しているのかを直接観測して理解することを可能にする。今回の成果を引き金として光反応の機構解明に向けた大きな進展が期待されるとしている。