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リチウムイオン電池に新電解液―水を用いて安全・安価・高性能化を実現:東京大学/科学技術振興機構/物質・材料研究機構

(2016年8月27日発表)

東京大学と(国)科学技術振興機構、(国)物質・材料研究機構は8月27日、携帯用電子機器や電気自動車などに使われている高性能蓄電池「リチウムイオン電池」の弱点を克服する新技術を開発したと発表した。心臓部のイオン電導性液体として従来の有機溶媒に代わる水ベースの液体を発見した。火災事故や毒性など安全上の問題が解消でき、リチウムイオン電池の低価格化にも役立つ。

 東大の山田裕貴助教と山田淳夫教授らが、科技振興機構の袖山慶太郎さきがけ研究員、物材機構の館山佳尚グループリーダーと共同で開発した。

リチウムイオン電池は繰り返し充放電できる高性能蓄電池。その原理はリチウムイオンが電解液中を正極から負極に移動することで電気エネルギーを蓄え、放電時には反対方向に移動して電気エネルギーを放出する。

今回発見したのは、水分子がリチウムイオンに結合したリチウム塩二水和物と呼ばれる物質。研究グループは水と特定のリチウム塩2種を一定の割合で混合することで、一般的には固体となるリチウム塩水和物が常温で液体状態を保つことを発見、リチウムイオン電池の電解液として使えることを確認した。

新物質を電解液として用いたリチウムイオン電池を試作、実験したところ、①有機溶媒を使った商用リチウムイオン電池(2.4~3.7V(ボルト))と同等の高電圧を実現できる、②電池に蓄えられるエネルギー密度が市販の2.4 V級リチウムイオン電池を上回り、充放電時間を6分以下に短縮できるなど、高性能を発揮することを確認した。

従来、電解液として用いられている有機溶媒は燃えやすく毒性があるなど安全面で難点があったが、新電解液は水をベースにしているのでその心配がない。また、従来のリチウムイオン電池は生産工程で水分の混入を徹底的に防止する必要があったが、新電解液ではその必要がなく生産工程の大幅な簡素化によるリチウムイオン電池の低価格化が実現できるという。

今回の成果について、研究グループは「高度な安全性と低価格の両立が要求される電気自動車や家庭用の大型蓄電池開発を大きく加速させる」と期待している。