量子磁性体における巨視的量子現象を観測―磁気準粒子に現れる動きを中性子散乱実験で確認:東京工業大学/青山学院大学/日本原子力研究開発機構 J-PARCセンター
(2019年8月21日発表)
東京工業大学と(国)日本原子力研究開発機構J-PARCセンター、青山学院大学の共同研究グループは8月21日、バリウム(Ba)やコバルト(Co)などから成る量子反強磁性体(Ba2CoSi2O6Cl2)の中性子散乱実験で、この磁性体中ではトリプロンと呼ばれる磁気準粒子が量子干渉効果によって全く動けなくなることを観測したと発表した。
磁性体におけるこうした量子効果や量子現象の解明が今後さらに進めば、これまでの各種磁気デバイスとは異なる新たな量子磁性体デバイスの開発が期待されるという。
通常の磁性体では、磁気準粒子は波のように結晶中を伝搬し、一般にその励起エネルギーは波の波長と進行方向によって異なる値をとる。
ところが、磁気準粒子に働く相互作用のフラストレーションが完全の場合には、つまり、逆の効果を持つ2種類の相互作用エネルギーが全く同じ場合には、磁気準粒子は磁性体中を全く動けなくなり、その励起エネルギーは一定になることが理論的に示されてきた。
研究グループは、この現象が実際の物質で起こることの確認をめざし、今回、量子反強磁性体であるBa2CoSi2O6Cl2に着目し、広い波長領域とエネルギー領域の磁気励起を調べられる中性子散乱を用いて、Ba2CoSi2O6Cl2の励起エネルギーなどを詳しく調べた。
その結果、この磁性体の相互作用のフラストレーションが完全であることを確認し、磁気準粒子が磁性体中を全く動けなくなることを観測した。また、磁化曲線に励起エネルギーが一定の、いわゆるプラトーが現れる巨視的量子現象を合せて観測した。
さらに、格子欠陥の作用によって形成される量子力学的励起状態を観測した。
これらの成果は、今後の量子磁性材料の開発に繋がることが期待されるとしている。