パーキンソン病の発症は分子の特定の運動から―発症のカギ握るアミロイド線維形成の糸口つかむ:量子科学技術研究開発機構/名古屋大学/日本原子力研究開発機構J-PARCセンター
(2019年8月26日発表)
(国)量子科学技術研究開発機構と名古屋大学、(国)日本原子力研究開発機構J-PARCセンターの共同研究グループは8月26日、脳内に存在する正常なたんぱく質「α–シヌクレイン」の分子の特定の運動が、パーキンソン病発症のカギとなる「アミロイド線維」という異常な塊を作り出す原因となることを突き止めたと発表した。
このたんぱく質分子の特定の運動を抑制する薬剤分子を探索・開発すれば、パーキンソン病に対するこれまでとは異なる新たな観点からの創薬の可能性が期待されるとしている。
パーキンソン病は、身体の運動の調節がうまくいかなくなる進行性の神経難病。患者数は1,000人に1人~1.5人だが、高齢になるほど発症率は高くなり、60歳以上では100人に1人とされる。
患者の脳細胞には「α–シヌクレイン」というたんぱく質が「アミロイド線維」と呼ばれる異常な線維状態となって蓄積していることが知られており、このアミロイド線維の形成がパーキンソン病発症のカギとみられている。しかし、アミロイド線維の形成過程はこれまで未解明だった。
研究グループはα–シヌクレインの分子の運動を解析すれば、どのような動きがアミロイド線維の形成をもたらすかを明らかにできるのではないかと考え、中性子準弾性散乱という手法を使って分子の運動と線維形成との関連性を調べた。
その結果、線維状の集合は、このたんぱく質の折れ曲がり運動と、分子内部の局所的運動が同時に起こることでもたらされることを世界で初めて発見した。
α–シヌクレインは140個のアミノ酸が数珠つながりに1本になったたんぱく質で、この1本の「ひも」に「こぶ」と呼ばれるアミノ酸側鎖が140個ついている。通常のたんぱく質は「ひも」と「こぶ」がきちんと折り畳まれ、特定の三次元構造をしているが、α–シヌクレインは天然変性たんぱく質と呼ばれ、特定の構造を持たずに様々な構造間を揺らいでいる。
今回の研究で、アミロイド線維が形成する過程では、α–シヌクレインの「こぶ」の局所的運動と、「ひも」の折れ曲がり運動の両方が同時に活発でなければならないことが見出された。これにより、アミロイド線維形成機構の解明の糸口が得られたとしている。
アミロイド線維の形成は、パーキンソン病だけではなくアルツハイマー病や家族性アミロイドポリニューロパチーなど、様々な病気の発症とかかわっていることが知られており、今回の成果はこれらの病気の発症メカニズムの解明と治療・予防法の開発への寄与が期待されるという。