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環境保全型農業が生物多様性に有効、全国調査で裏付け―農産物の付加価値作りやブランド化に役立つと期待:農業・食品産業技術総合研究機構

(2019年8月28日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構は、3年間にわたり全国1,000か所以上の水田で初の生き物の野外調査を実施した結果、有機肥料や農薬節減による環境保全型栽培の水田が、農薬を使う従来型の水田に比べて絶滅の恐れのある動植物を含む種数と個体数が多いことを確認したと、828日に発表した。有機肥料や農薬節減が生物多様性の保全に有効であることの強力な科学的、客観的証拠になったとしている。

 化学合成の農薬を使う従来型の農業は、食糧の生産性向上には役立ったものの、生物多様性の損失や天敵による害虫駆除、花粉を運ぶ昆虫の減少などの生態系サービスが劣化し、深刻さを増している。

 欧米では、畑地生態系を対象に有機栽培や農薬節減栽培がもたらす生物多様性の保全効果が、たくさんの研究によって明らかにされた。ところが日本を含むアジアでは一部の天敵生物を除いて調査がなされてなく、科学的な知見が不足していた。

 農研機構は2013年から2015年の3年間に全国1,000以上の水田で、有機栽培と農薬使用の従来型栽培とを比較する野外調査に入った。その結果、有機栽培の水田では絶滅の恐れのある植物の種数や、アシナガグモ属、アカネ属(トンボ)、トノサマガエル属の個体数量が多かった。農薬節減栽培でも植物の種数とアシナガグモ属の個体数が多いことが分かった。

 ニホンアマガエルとドジョウ科の個体数は、農薬節減栽培か有機栽培の影響よりも、田んぼを区切るあぜ道に生える植生の高さや輪作農業などの管理法のあり方の影響が強かった。

 有機栽培の水田面積が多い地域(1Km2の範囲)ほど、サギ類などの水鳥類の種数と個体数が多かった。広範囲を移動するトリなどの保全には、1枚の水田より地域や生産グループによる広範囲の取り組みが効果的であることを意味している。

 農研機構は、鳥類を中心にそのエサとなる生物や植物を生物指標とし、水田の生物多様性の保全状況を分かりやすく紹介する「調査・評価マニュアル」をまとめている。これを活用することで、各地域の農作物の付加価値の向上やブランド化に貢献できるものと期待している。