人工ダイヤで量子センサー―世界最高の磁場感度実現:京都大学/産業技術総合研究所
(2019年8月27日発表)
京都大学と(国)産業技術総合研究所は8月27日、微細な磁場などを検出する量子センサーの実現が期待される人工合成ダイヤモンドを使い世界最高の磁場感度を実現したと発表した。電場や温度、圧力などの高感度センサーとしても応用できる可能性もあり、新材料開発や生命科学研究のほか核磁気共鳴や心磁計、脳磁計など医療分野への応用も期待できるとしている。
炭素の単結晶であるダイヤモンドで炭素原子の一部が窒素原子(N)に置き換わり、隣に原子のない空孔(V)ができた場所を単一NV中心と呼ぶ。これを利用すると通常は極低温でなければ実現できない量子状態を室温でも作ることができ、室温で使える超高感度量子センサーや量子情報素子などが実現できると期待されている。
京大 化学研究所の水落憲和教授らと産総研の加藤宙光主任研究員らの研究グループは、人工的に合成したダイヤモンドに微量のリンを入れてn型半導体としたときに、単一NV中心がどのように変化するかを確かめた。その結果、ある一定量以上のリンを入れると量子センサーの感度を左右する「電子スピンコヒーレンス時間」と呼ばれる値が非常に大きくなり、世界最高の磁場感度が実現できたという。
一般に不純物のリンを入れると電子スピンコヒーレンス時間は短くなるのが常識だったが、今回の実験ではそれに反する結果が得られた。この結果について、研究グループは「ダイヤモンドの合成中に生成した空孔欠陥が電荷を帯び、磁気ノイズ源となる複合欠陥の生成が抑制されたため」とみている。
今後、合成ダイヤモンドを用いたn型半導体のさらなる高感度化と、量子素子への幅広い応用に道がひらけると期待している。