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温暖化による経済被害を世界規模で推計することに成功―今の排出削減努力と社会経済の改善が、将来世代の被害を軽減させる:国立環境研究所ほか

(2019年9月26日発表)

 (国)国立環境研究所、茨城大学などの研究グループは9月26日、複数の温室効果ガス排出の見通しと人口やGDPなど将来の社会経済の仮定による大規模なシミュレーションを実施し、温暖化による世界規模での経済被害額を推計したと発表した。導き出された21世紀末のシナリオによると、最悪の場合は被害額が世界全体のGDP(国内総生産)の3.9〜8.6%にも上るが、一方でパリ協定の2℃目標を達成し、経済的な格差が改善された場合には0.4〜1.2%に抑えられる。われわれ世代が温暖化対策の取り組みをし、社会経済状況を改善することが、将来世代の被害の軽減に大きな影響力を持つと予測している。

 温暖化は多くの分野に様々な影響を及ぼすだけに、統一的に表すことは極めて難しかった。どれだけ排出ガスが削減されるか、人口の増加や経済活動の規模など社会経済状況の違いによっても被害レベルは大きく変わるためだ。一方、温室効果ガスの排出量が同じでも、複数の気候モデルによって将来予測のばらつきが大きくなる不確実性もあった。

 研究チームは、まず温暖化で影響を受ける主要9分野の「農業生産性」「飢餓」「暑さによる死亡」「冷暖房需要」「労働生産性」「水力発電」「火力発電」「河川洪水」「海面上昇」について被害額を推計した。

 将来の温室効果ガス排出量や社会経済状況については4種類のシナリオを利用した。①産業革命前と比べ2℃未満に抑える、②従来通り増え続ける、さらにその中間に当たる2種類だ。

 社会経済状況のシナリオでは、仮に気候条件が同じでも国別の人口や国の豊かさ、技術レベルなどによって被害の大きさに影響が出る。こうした気候予測の不確実性などを考慮して5種類の気候モデルによる計算結果を使った。

 被害金額の推計も、過去に発生した災害の直接被害額から換算(河川洪水、海面上昇)したり、GDPの変化を推計するモデル(農業生産性、飢餓、冷暖房需要、労働生産性、水力発電、火力発電)を使ったり、死亡リスクを回避するための生命の価値の金銭換算(飢餓、暑さによる死亡、河川洪水)を行った。

 これらのシミュレーションの実施で分かったことは、1)同じ気温上昇でも、地域によって被害額(対GDP比)は異なり、アフリカでは大きく北アメリカでは比較的小さくなる。途上国の多い地域の被害軽減には、排出ガス削減の努力だけでなく、社会経済状況(1人あたりのGDPの増加)の改善が欠かせない。

 2)「人為的要因」(排出削減と社会経済状況の改善)と「気候モデルによる不確実性」による被害額の影響の関係を年代的に予測した。近い将来(2020〜2039年)は不確実性の方が大きいため温室効果ガスの削減効果は必ずしも明確ではないが、21世紀の中盤にはこれが逆転し、人為的要因(排出削減や社会経済状況の改善)の占める割合が大きくなった(2050〜60年代は63%、80〜90年代は78%)。

中長期的には、気候モデルの違いの影響よりも、温室効果ガスの削減と社会経済状況の改善による人為的な要因が、温暖化被害を大きく軽減させると指摘している。