低線量放射線被ばく―照射法で変わる生体への影響確認:量子科学技術研究開発機構/横浜市立大学/高エネルギー加速器研究所ほか
(2019年9月30日発表)
(国)量子科学技術研究開発機構、横浜市立大学、高エネルギー加速器研究所(KEK)の研究グループは9月30日、放射線の生体への影響が照射の仕方で変わることを発見したと発表した。マウスの精巣に微細な縦縞状のX線を照射する実験で、均一照射では見られない組織機能の回復が起きることを確認した。生体の傷害は放射線量に応じて増加するという従来の考え方が、不均一照射の場合には当てはまらないことが証明できたとしている。
生体器官への放射線の影響は、これまで放射線量に応じてその度合いが大きくなると考えられてきた。ただ、研究グループはこれが「器官全体が一様に放射線の影響を受ける」ことを前提にしたもので、放射線が当たったり当たらなかったりする細胞が混在することになる低放射線量の場合は成り立たないのではないかとして、マウスを用いた実験で詳しく調べることにした。
実験では、雄マウスから摘出した精巣を1mm角程度に切り出して培養した試料を二つ作成した。いずれも合計2.5Gy(グレイ、Gyは組織重量当たりに放射線から受け取るエネルギーの大きさを表す単位)のX線を照射した。このとき、一方には試料全体に照射、もう一方には照射範囲を1,000分の1mm単位で制御できるX線を用いて細い縦縞模様部分に集中して照射した。
このX線照射によって精巣組織の精子形成能力がどの程度傷害を受けたかを、研究グループの一員が独自に開発した「精巣器官培養法」を用いて判定した。その結果、組織全体に均一にX線を照射した試料では精子の形成能力が失われていたのに対し、縦縞状に照射した試料では同じ2.5Gy相当のX線被ばくがあっても精子形成能力にほとんど影響がないことが分かった。
この結果について、研究グループは「放射線が照射されていない部分にある精子形成細胞が損傷部分に移動して、精子形成能を修復・保全している可能性がある」とみている。将来的には放射線治療の副作用のリスクをさらに低減する新しい治療法の開発につながると期待している。