統合失調症の認知機能障害の原因明らかに―白血病治療薬が統合失調症の治療にも有効:筑波大学
(2019年10月10日発表)
筑波大学は10月10日、米コロンビア大学との共同研究で、SETD1Aと名付けられた酵素の機能喪失変異が、統合失調症の認知機能障害の原因となることを突き止め、白血病治療薬として臨床試験中の薬物がこの治療にも有効なことを見出したと発表した。治療の難しい統合失調症の認知機能障害の治療薬開発に道が開けたとしている。
統合失調症は、妄想・幻覚・無秩序な思考といった陽性症状、引きこもり・無気力といった陰性症状、記憶力・注意力・情報処理能力などの機能低下といった認知機能障害の3つの特徴によって定義付けられる精神神経疾患。
研究グループは数年前に、統合失調症の高い発症リスクを持つSETD1Aの機能喪失変異を発見した。SETD1Aは、DNAを折り畳んで核内に収納する役をしているヒストンというたんぱく質をメチル化する酵素で、この酵素によるヒストンのメチル化は、遺伝子の発現を調節している。
研究グループは今回、SETD1Aの働きをブロックしたマウスを作製し、行動解析をしたところ、統合失調症患者と共通する認知機能障害の一つである、作業記憶の障害を持つことが明らかになった。この障害が起こると、推論や認識、意思決定などに深刻な影響が及び、日常生活に支障をきたす。
そこで、独自のスクリーニング法を開発し、作業記憶障害に対して治療効果のある化合物を探索したところ、白血病治療薬として欧州で臨床試験中の抗がん剤ORY-1001が、マウスの作業記憶障害を完全に回復させることを見出した。
この発見を受けて現在、統合失調症患者の治療に転用できるかどうかを検討中という。
さらに次世代シーケンス技術を駆使して特定の遺伝子発現の制御を解析した結果、SETD1Aは皮膚神経細胞のゲノムの非翻訳制御領域(エンハンサー領域)に結合し、特定の遺伝子発現を制御していることが分かった。また、SETD1A結合エンハンサーは、統合失調症の多くのリスク遺伝子と共通することを見出した。
研究グループは、SETD1Aに固有の治療法は統合失調症全体に対して広範な治療効果をもたらす可能性があるとみている。