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虹色に輝くクシクラゲの特有のたんぱく質を発見―動物の進化の手がかりや、光を制御できる「フォトニック結晶」への応用も:筑波大学

(2019年10月11日発表)

 筑波大学下田臨界実験センターは1011日、水族館で人気者のクシクラゲの美しい櫛板(くしいた)を形作っている分子(たんぱく質)を発見したと発表した。この成果を元に、クシクラゲが櫛板を獲得した経緯が解明されれば動物の進化の道筋がわかると期待している。また光を内部に閉じ込めたり光の侵入を防いだりできることから、新物質のフォトニック結晶の開発にも役立つとみられている。

 クシクラゲは最も原始的な海産動物の一種。ゼリー状の体を持つことから「クラゲ」の名前が付けられているが、現在は「有節動物」に分類される。

 クシクラゲは光の加減によって虹色に輝く櫛板を持つ。数万本の繊毛が束ねられた薄板状(ラメラ)に積み重ねられた構造で、体表面に8列ある。繊毛は直径0.2ミクロンの細胞の毛だが多数が束になることで、クジャクの羽やタマムシのように光が干渉しあって美しい構造色を出している。

 数万本の繊毛をつなぎとめる薄板は他の生物にはみられない特徴的な構造があるものの、その実態は知られていなかった。

 研究チームはクシクラゲの一種の「カブトクラゲ」を室内で長期飼育をしながら櫛板を生化学的に分析する手法を開発し、遺伝子カタログを作成した。これを参考に櫛板だけに含まれるたんぱく質を質量分析装置で解明し、「CTENO64」(テノ64)と命名した。

 カブトクラゲからCTENO64を欠いたところ、櫛板が波打つ方向や平面性が失われて正常に移動できなくなることを確かめた。繊毛の方向を揃え、正常に波打たせる機能を持っており、クラゲ自身の移動に重要な役割を果たしていることが分かった。

 今後は、櫛板の全てのたんぱく質成分を解明することによって、クシクラゲが櫛板を獲得した経緯を明らかにし、動物の進化に関わる謎を解明できるとみている。

 また櫛板は、光の方向や強度を自由に制御できるフォトニック結晶の性質を持っていることから、将来の新しい光ファイバーや光ディスクの記憶再生素子など高度な電子機器の開発にも役立つとみられている。