機能性ナノ粒子の高速合成に新技術―温度で光学特性変わる材料実現へ:産業技術総合研究所ほか
(2019年10月15日発表)
(国)産業技術総合研究所と先端素材高速開発技術研究組合は10月15日、温度に応じて光の反射率や透過度が変わる二酸化バナジウム(VO2)のナノ粒子を従来製法より30分の1程度の短時間で作れる新技術を開発したと発表した。エンジン排熱を冷暖房に使えない電気自動車の窓材に応用すれば、将来的に蓄電池の負荷の軽減や走行距離の延長につなげられると期待している。
VO2は環境温度に応じて光の反射率などを変えるサーモクロミック特性を示す物質として注目されている。ただ、従来製法では粒径のそろったナノメートル(1nmは10億分の1m)級の粒子を効率よく作るのが難しく、透明度が必要な車の窓材などに利用するのは難しかった。そこでこれらの課題を克服する新製法の開発に取り組んだ。
研究グループはまず、高温高圧の熱水下で合成する従来の水熱合成法に注目、課題を洗い出した。従来製法では熱伝導によって容器内の原料溶液を加熱してナノ粒子を作るため熱水温度を急速に上昇させるのが難しく、対流によって温度が不均一になる。そのため粒子の合成に30時間もかかり、粒径をそろえることが困難なことが分かった。
そこで溶液に直接マイクロ波を照射して急速加熱する新製法を検討、原料溶液も製法に合わせて調整するなどしてナノ粒子の合成を試みた。その結果、ナノ粒子の合成時間を従来の30分の1の1時間以内に短縮、粒子の成長も抑えられ、粒径のそろったナノ粒子が合成できた。電子顕微鏡で観察したところ、従来製法では粒子径が25~50nmだったのに対し新製法では15~25nmとなり、ばらつきも小さくなった。
新製法によるVO2ナノ粒子の分散液を透明な樹脂フィルムに塗布して光の透過率を調べたところ、10℃に比べて80℃では近赤外光の全波長領域で透過率が減少した。特に太陽光で強度が大きい波長帯では透過率の差が47.9%で熱を伝えにくいことが分かった。一方、可視光領域では10℃で透過度が比較的高く透明度は確保されるという。
研究グループは「今回開発したマイクロ波水熱合成法により、他の元素を高濃度に添加したVO2ナノ粒子の迅速な試作が可能になった」として、今後さらに研究開発を加速化する。