ノーベル賞級の研究が生まれるプロセスを計量学的に解明―国の科学技術政策や産業投資、研究計画立案に向けて:筑波大学ほか
(2019年10月18日発表)
筑波大学医学医療系の大庭良介准教授と弘前大学人文社会学部の日比野愛子准教授は10月18日、生命科学・医科学系分野の研究を計量学的に分析した結果、ノーベル賞級の独創的な成果が生まれるプロセスの一端を明らかにしたと発表した。ノーベル賞級の少数のトピック(研究テーマ)の芽は、萌芽的トピックとは独立して生まれる場合が7割以上に上るとしている。
急速に発展する生命科学と医科学分野には多大な研究投資がなされ、世界で毎年120万報以上の論文が出版されるなど、最も注目される研究領域になっている。日々新たな研究トピックが生まれ、中にはノーベル賞級の衝撃を持って登場し、社会的イノベーションを引き起こす優れた成果となる一方で、多くのトピックが成果を出せずに消え去るなど、明暗が目立ち始めている。
このような中で、萌芽的トピックを捉え、それが生まれる原理を見出すことは、国の科学技術政策や企業の研究開発にとって重要である。優れた研究者個人の感覚や経験として知られているものもあるが、研究活動全体を捉えて一般化できるものはなかった。
研究グループは、米国立医学研究所(NLM)が提供する生命科学・医学分野の文献検索エンジンを使って、約半世紀間(1970年〜2017年)に出版された合計3,000万報の論文を基に、萌芽的トピックを独自に決定し、それを評価する手法を確立して、新たな研究ジャーナル評価法を提案してきた。
ここで「萌芽的トピック」とは、独創的で意外性のある着想に基づく芽生え期の研究で、主に論文内容を表現するキーワードの「現象」「疾患」「プロセス」「物質名」「遺伝子」「生物種」「解剖学的部位」「技術」「デバイス」などが含まれるものを指す。
キーワードの萌芽性を、その要素を持つ論文の増加率で見つけ、増加率のトップ5%を「萌芽的要素」と定義した。研究は、この萌芽的要素が萌芽的トピックに組み込まれ、新たな萌芽的トピックを生み出す過程などに焦点を当てて解析した。
その結果、①萌芽的トピックが、新たな萌芽的トピックを生み出す場合が7割以上ある、②多くの研究トピックはこの萌芽的トピックの創出の過程には関与しない、③ノーベル賞級の少数のトピックは、萌芽的トピック創出のプロセスには現れず、独立した要素から生まれる場合が7割以上あることなどが明らかになった。
萌芽的トピックが生み出される外形的プロセスは明らかにされたものの、「萌芽的トピックを生み出す原動力となるものは何か」はまだ未解明だ。今後は研究者、研究費、地域国際性などの要因を加えて分析していきたいとしている。