硬化した塗膜を溶かさずに剥がす方法を開発―溶剤を用いずに近紫外線の照射で:産業技術総合研究所ほか
(2019年10月28日発表)
(国)産業技術総合研究所は10月28日、(株)TATと共同で硬化した塗膜を溶かさずに剥がす方法を開発したと発表した。硬化した塗膜を溶剤で溶かさずに剥がすことは難しく長年の課題だったがそれに応えるもので、先ずジェルネイルに利用する検討が企業で進められている。
ジェルネイルは、ジェルと呼ばれる液状の合成樹脂を爪に塗り光を照射して硬化膜を形成するというもの。女性の爪の美容法として普及しているが、近年はアスリートネイルといってスポーツ選手の爪を塗膜で保護する試みが関心を集めている。
だが、強固に密着している硬い塗膜を除去するには、溶かすしか今のところ方法がなく有害な有機溶剤がいる。
新技術が実用化すれば、様々な分野に使われている塗膜材を溶かさずに簡単に除去できるようになる。
産総研は、光に応答する液晶と樹脂の混合物を使って損傷を修復する技術や、光で粘着性を制御するフィルムの開発をこれまでに行っているが、それをベースにして今回新たに光を当てると密着性が大きく低下する樹脂を開発し、硬化した塗膜を溶かすのではなく剥がす方法を完成させた。
新開発の樹脂は、アクリル樹脂やウレタン樹脂などに液晶成分を混合して得た。この塗膜材の硬化塗膜に特定の波長の近紫外光を照射するとそれまで均一に混じっていた樹脂と液晶とが分離する相分離と呼ばれる現象が生じて硬化塗膜を基材から剥がせるようになるというのがその仕組み。
単に樹脂に液晶を混ぜるだけではこの塗膜材は得られない。産総研は、数十種類の液晶成分を検討して通常の液晶成分とは異なる新しい液晶成分を見つけてその壁を突破、目的の無色透明の混合物を作った。
実験では、開発した液晶と樹脂の混合物をアルミニウムの基材に塗布して波長405nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の可視光を照射、光硬化させ、その硬化塗膜に波長365nmの近紫外光を当てているが、10分間の照射で基材への密着性が10分の1まで低下することを確認している。
産総研は、「溶剤を用いずに剥がせるペンキやコーティング剤などが実現できる」ものと期待している。